法的性格の目次に戻る
前へ
次へ
ルフィミアネットの本はこちら
特に転質について
転質とは?
質権者は質物をさらに質に入れることができます。これを「転質」と言います。これは質屋業界内部で資金力の小さい質屋が資金力の大きい質屋から資金を調達する方法として、自分が質物として預かった物を再度質に入れるという慣行があり、民法で定める要請が大きかったのでしょう。本来は使用収益にあたりますからだめなはずですが、質権設定者が承諾した場合(承諾転質)はもちろんのこと、質権設定者の承諾がなくとも348条により転質は可能です(責任転質)。責任転質の性質については争いがあります。
対立の背景
仮に質権設定者をA、質権者にして転質権設定者をB、転質権者をCとしましょう。もしAが借金をBに返してしまえば、それが弁済期前であろうと後であろうと直ちに質物を受け取れるということであれば、転質はそれほど問題になりません。しかしそれでは転質権者Cから見た場合、元々の質権設定者の状況のいかんで転質権がなくなってしまうことになります。このあたりの調整が、転質をめぐる争いにつながってくるのです。
348条を素直に読めば「質物をさらに質に入れる」ということで何も問題がないような気もします。しかし詰めていくと、転質は問題にならないけど、転質権者の転質権は非常に弱いものとなり、「なぜわざわざ転質という制度を認めたのか?」という疑問が発生します。単純に善管注意義務を解除するためと考えれば疑問には答えたことにはなりますが、一般的には転質権者の転質権はそんなに弱いものではないと解されていることから、単純に善管注意義務の排除とは言えないこととなります。そうなると結局、質権設定者に制限を加えることの根拠が薄くなり、理論上の問題点となります。
一方「被担保債権と質権とを共同で質に入れる」と解するのは348条の明文に反しています。「解除条件付きの質権移転」と解するのは理論上の問題点は少ないものの、かなりトリッキーな部分もあり通説となるまでには、いたっていません。
転質の要件
転質の質の一種ですから、質権の成立要件は当然に必要になります。その他に転質独特の何かが必要なのかとう話です。
- 被担保債権額は元の質権(原質権)における被担保債権額を超えないこと
質物を質入するという考え方によればこの要件は不要なんだけど、「価値を把握してそれを」という発想からは当然の定めとなります。
- 不動産質においては存続期間が原質権の存続期間内であること
不動産質の場合に、原質権設定者がきちんと弁済しても、不動産を取り戻せないことのないようにという規定です。動産質や債権質には存続期間という概念がないので適用されません。
転質による質権者の責任
転質は認めるけど、転質をする以上は、元の質権設定者には迷惑をかけない……というのが大原則です。したがって、転質をしたがゆえに被ることとなった損害については、たとえ直接の原因が不可抗力だったとしても、「転質」したのが悪いこととなって、質権者が損害賠償責任を負うこととなります。
転質によって質権設定者に発生する義務
期限前にお金を返して質物を取り返すということができなくなります。また期限にお金を返す際には供託することになります。供託すると弁済したことで被担保債権もなくなり原質権も消滅します。
転質権実行の条件
転質も質ですから質権実行のためには所定の要件が必要です。その他に原質権についても弁済期が来ていることが必要です。
転質権の消滅
当然のことながら転質権が担保する債権が消滅すれば転質権も消滅します。その結果質物は返還されなければなりません。
転質に似て非なるもの
質権者が質物であることを隠して質に入れてしまった場合。これは転質に似ていますが転質ではありません。あくまで新たな質入れであり、即時取得(192条)の規定により新しい質権者は転質ではなく、その物についての新たな質権を得ることになります。
当然この場合、元の質権設定者との関係では、他人の財産を根拠なく自分の物であるかのようにふるまった訳ですから、横領罪に問われることになります。
法的性格の目次に戻る
前へ
次へ
ルフィミアネットの本はこちら