質権が担保している債務を弁済して債務を消滅させれば、質権も自動的に消滅します。当然留置的効力も失われますから、質物(だった物)を直ちに返還しなければなりません。これは当然所有権の効力ですし、また質権設定契約による効力でもあります。
この点について、「質物を質権設定者に返さないで、別の債権を担保することにする」ことができないかという議論がされます。日本の担保物権の制度が「特定の債権を担保する」制度であることに加え、質権が消滅してしまうと後順位の担保権者が上位に来ること、自分の所有物に自分が債権者として質権を設定することができず、誰かが質権を設定した後で自分が債権者の地位を引き継いだ結果自分の所有物に自分が債権者となった場合も、質権は消滅するとなるため、せっかく質権で把握した価値を、弁済によって失ってしまうことから、なんとかなからないかというものです。
ただ質権に関する限り、現実の必要性は薄れているようです。
なお、この場合のお金は「元金利息等全部」です(優先弁済を受けられる範囲を参照)。一部を返しただけでは質物を返す義務はありませんし、質物を比例分割して返す必要もないのです。
転質が行われている場合には、期限前にお金を返すことができませんし、期限が来て返す場合には、直接返すのではなく、供託する必要があります。
弁済以外の理由で被担保債権が消滅しても、質権は消滅します。時効消滅がある意味典型例ですが、質物を預かっていることから、消滅時効はその間進行しないと誤解しがちです。