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特に被担保債権と質権の関係及び根質について

 もともと担保物権は「特定の」債権回収に役立てる制度として設計されました。例えば10万円借りて分割で返す約束をし、その担保として何かに質権を設定する場合。10万円を返しきるまで質物は返還しなくともかまいませんが、10万円を返しきったら質権は自動的に消滅するとされていたのです。これは抵当権でも同じで、10万円を返しきるまで抵当権はつけたままでよいのですが、10万円を返しきったら抵当権は消滅し、消滅した抵当権の登記が残っていれば、その登記の抹消を請求することができます。その登記をもとに別の債権の担保に使うということは、第3者に対しては対抗力を持たないと解されています。特定の債権回収のための制度だから別の債権の回収には使えないのです。これは第1に債権者が必要以上に債務者の財産を拘束しないようにするためであり、第2に他の債権者に不測の損害を与えないようにするためでした。これに関連して担保物権成立の時にも、特定の債権が存在しないような場合には担保物権も成立しないと考えられたのです(成立における附従性)。
 しかしこれはだんだん緩和されて考えられるようになりました。元々は先に金銭消費貸借契約と担保権設定の契約をすませ、登記等の手続が必要であればそれも済んでから現金を渡す慣行になっているのですが、厳格にいきすぎると、担保権設定時やその登記時には現金は渡っていないのであるから担保権も成立していないし、成立していない担保権の登記も無効だということになります。さすがにこれは行き過ぎで判例も数日程度の前後であれば無効ではないと判断しました。
 さらに担保物権の「価値を把握する」作用に注目して、将来発生する債権、その一種とも言える条件付き債権・期限付き債権などについても認めるべきだという議論が起こり、最高裁も順次これらを認める判決を出すようになります。
 価値を把握する作用の究極的な展開として、特定の債権にはとらわれない「一定の枠内」の債権を担保する根担保、例えば根質とか根抵当などが認められるかという議論になります。物権については物権法定主義の規定(175条)があって、法律に定めのない物権を勝手に作ることが禁止されている一方で、従来からある物権の要件を緩和することでカバーすることも可能な場合もあり、根質や根抵当についてはその是非や根拠が問われてきました。現在では根抵当については昭和46年の民法改正で規定されたことから立法的解決がなされました。質権については改正されなかったのですが、質権は現在では「預金に対する質権」「保険金請求権に対する質権」のような債権質か、そうでなければ質屋が扱う動産質がほとんどとなったため、債権質の場合には根質を必要とする局面がきわめて稀であり、質屋は自ら質物の占有を取得し、かつその範囲で貸し付けるので、これまた根質を必要とする局面が少ないことから、根質について否定はしないけれども、議論をする必要性は少ないという状況になっています。
 ただそうは言っても「特定の債権回収に役立てる制度」から始まったことは、今もいくつかの規定に残っていますし、いくつかの解釈論にも残っています。その特定の債権がそもそも成立しなかったような場合には、いくら質権設定契約を結んだとしても、質権が担保すべき債権が最初から存在しないため、質権設定契約も効力を失い、質権は当然成立しないということになります。また条件付き債権の場合には質権が成立するものの、条件が成就しないことに確定した場合には、その時点で担保すべき債権の不存在が確定したこととなって、その時点で質権は消滅することとなります。

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