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質権成立の要件
質権が成立するためには、まず質権設定契約が必要だとされています。「この物に質権をつけるよ」「いいですよ」という内容の合意ですね。普通はこういう取り決めをするものでしょう。とはいえ、質権はお金を貸す時に本人の物につけることが普通ですから、お金を貸す契約と同時に一緒の契約で行うことが多いと思います。お金を借りる人に物がない場合に、別の人が自分の物を差し出してそれに質権をつけることは可能ですから(ちなみに自分の物を他人の債権の保証に差し出すパターンの保証を「物上保証」と言います。物上保証した人は債務者ではありませんから、物上保証した人に返済を求めることも、また質権の対象となる物以外について強制執行することもできません。)そういう時には質権設定契約だけがなされることとなるでしょう。逆に債権者でない人が質権だけを持つということは許されていないため、質権者は必ず債権者となります。
次に質権をつけた物(質物)を預かる必要があります。その物の所有者(=質権設定者)に持たせたままではいけないのです(※1)。このことを定めたのが344条であり、このことを徹底したのが質権設定者の代理占有を禁じた345条だとされています。占有権を移転させるためには現実に引き渡すだけではなく、いくつかの省略した方法があるのですが、そのうちの「私の占有しているこの物については、今日からは私ではなく別の人のために占有しますよ。」と言わせることによって(現実の物の移動はないまま)占有権を移転させる「占有改定」の方法は質権の場合にはだめですよってことになっています。これはなぜかというと質権設定者に持たせたままなら留置的効力の余地がないし、そのようなものに質権を認める必然はないからだというのが現時点での通説的見解です。起草者は質権の存在を外部からわかるようにするためには、質権設定者に持たせたままではいけないと考えていたようなのですが、ただ、所有権の移転も占有改定で対抗できると考えられているのに、所有権を制限する物権である質権で占有改定がだめで公示を徹底させければならないとするのは、確かにバランスの悪いところで、根拠を公示に求めない点で通説的見解は合理的です。しかし通説的見解が質権の本質を留置的効力に置くというなら、留置的効力が性質上認められない権利質を、民法が明文で質権として認めていることとの整合性をとる必要があるでしょう。なお、「質権設定者に持たせない」というところがポイントなので、質権者が持つことまでは(質権成立の要件としては)要求されません。また占有改定以外の省略した方法、例えば質権設定者が既に誰かに預けている場合に「これからは質権者のために預かるように」と命じてその誰かが了承すれば(指図による占有移転)、それでもよいことになります。(既に質権者が預かっている物について質権を設定する場合に、いったん質権設定者に渡して……などということが不要なことは言うまでもありません。)しかし、質権者と質権設定者との共同占有では、質権者が持ちつづけている以上だめだとされています。
さて344条が「引渡を為すに因りてその効力を生ずる」と書いたことから、質権設定契約が要物契約であり176条の物権の設定については意思表示だけでよいとする原則の例外であると説くのが我妻先生で、質権設定契約自体は要物契約ではなく、引渡がないと物権としての質権の効力が発生しないだけだと説くのが内田先生なのですが、理論的整合性を求めるならば物権設定のための契約の位置づけも考えておかなければならないと思います。内田先生の分析が明快であるのは間違いないところです。一方、物権が発生しない物権設定契約を有効ということによってどんなメリットがあるかと言えば「質物の引渡義務が発生する」と解する点くらいでしょう。(要物契約なら契約自体が成立しないから質物の引渡義務を概念する余地がない。)で、質物の引渡前には質権は発生していないこと自体は争う余地がない以上、344条が176条の例外であるとする我妻先生の指摘自体は崩れないように思います。
ちなみに判例はこの点、後に質物を引き渡した時点で質権成立ととらえており、その理由付けを「質権設定契約の予約」か「停止条件付質権設定契約」であることに求めています。逆な言い方をするならば、質権設定を要物契約と解しつつも、「いつまでに質物を引き渡さないと質権設定契約自体が無効となる」という考え方は判例はとっていないことになります。
不動産質においても引渡が成立要件となりますが、もし当該不動産を賃貸中の場合には特約のない限り引渡によって賃貸人の地位も移転されると考えられています。
債権質のうち,倉荷証券の質入の場合には,質入裏書でなくとも裏書譲渡で足りるという判例があります。
株式質は,株式の性質について,会社財産に対する何らかの請求権というのにとどまらず,会社経営に参加する権利をも含んでいると考えられていますが,会社財産に対する何らかの請求権である点に着目し,これを質入することは可能です(※2)。このうち記名株式を質入する場合において,質権設定者(=株主)の請求により会社の質権者名簿及び株券に記載することで質入するのを「登録質」,記名・無記名問わず株券の交付ですませる質入を「略式質」と呼んでおりました。さらに証券振替決済制度の導入に伴い,株券なしでの権利移転等が可能になりました。これは株式自体は保管振替機関における混蔵保管となり,株主は混蔵保管残高に対する持分権を有しつつ,会社経営に参加する権利については個別の株主が個別に行使できるとするものです。この場合の質入は質権者への残高の振替によって行われます。
なお、質権は「質権設定者が引き渡さないと成立しない」ですし、引き渡してしまって手元にもはやない物を質物としてさらに質権を設定するというのはかなりのレアケースになります。一応あるとすれば質権成立後にさらに指図による占有移転がなされた場合でしょうか?質権者以外の者が直接占有している時に質権設定者が別の質権者のために占有するよう命じて直接占有者が承諾すれば占有の移転自体は認められます。で、貸倉庫のような場合だったらこれは十分あり得るでしょう。この場合には同じ質物に質権が二重に設定されることがあり得ます。二重に設定された場合には引渡の順序、具体的には指図の意思表示の順序で質権の順位も決まることになります。
※1
所有者にそのまま持たせる「抵当権」との大きな違いです。
※2
無記名株式は動産扱いです(民法86条3項)。
(2004.8.30改訂)
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