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質権の対抗要件

 質権の対抗要件は質物によってことなります。

不動産質

 直接の定めがなく、361条で抵当権の規定が準用されると考えられることから、登記が対抗要件となります。余談ですが登記が対抗要件であることから、質権設定契約自体は書面を作成する必要がないものの、登記の際の原因証書として添付することが要求されることから書面を作成するのが普通です。
 登記の際に、債権の金額を定めて登記することが不動産登記法上要求されています。また存続期間が10年、更新してさらに10年に限定され(民法360条)、それがすぎると不動産質権の消滅を登記なしで第3者に対抗できるようになります。当事者間で存続期間を定めなかった場合、最長10年で不動産質権が消滅すると考えられていますが、10年以内に被担保債権の弁済期が来る場合にどうなるかについては学説が分かれています(※)。存続期間経過によって使用収益ができなくなるのは当然のことですが、優先弁済権も消滅すると考えられています(「使用収益権だけの消滅であって、優先弁済権や競売権は存続する」という見解があります)。一方この存続期間は「質権者が使用収益できる権利」の期間でもあるため、その間は債務者が弁済して質権を消滅させることができないことになります。
 ちなみに、消滅した質権の登記は、所有者(=質権設定者)が(旧)質権者に対し抹消請求できます。
 一方、対抗要件をそなえている質権が設定された不動産であっても、所有者は所有権に基づいてその不動産を譲渡することが可能です。というのは不動産質の場合、質権者の占有が必ずしも質権の存続要件や対抗要件ではなくなっているからです。そうしますとこの譲渡は「質権の設定された不動産」の譲渡ということになります。そして不動産質権には抵当権の規定も準用される結果、代価弁済や滌除ができることになるはずなのですが……。滌除については第3者の側で増価競売を申し立てることができる結果、質権者の意に反して質権を消滅させることができるとされるところ、このことが「被担保債権が弁済されない限り質物をもっていてよい」という留置的効力を否定することになるため、滌除については不動産質では認められないこととなります(反対説あり)。そしてこれは抵当権と不動産質権との違いになります。


 大審院時代の判例には「弁済期にかかわらず10年存続する」というものがある一方、「最長10年の範囲内で弁済期まで」という説もあります。後者の考え方はわかりやすいのですが、「弁済期に弁済してもらえないから質権実行となるのだ」ということを重視すると自然に大審院判例の答になるでしょう。

債権質

 債権の種類によります。証券化された債権、例えば手形、小切手などの指図債権の場合は、当該証券に質権を設定した旨を記入(裏書)して交付することが対抗要件になります(366条)。倉庫証券・船荷証券などについては質権設定まで記入しなくてもよく、譲渡の裏書と証券の交付で足りることから譲渡担保と証券上は区別がつかないこととなります。。
 預金などの指名債権の場合には、その指名債権の債務者(預金の場合だと預金を受け入れた金融機関)に質権設定者から通知すること、もしくはその指名債権の債務者が承諾すること(承諾の相手方は旧債権者でも新債権者でもどちらでもよい)が対抗要件となります(364条)。これは債権譲渡の対抗要件と同じです。
 記名の社債の場合には、社債券に質権の設定の記載をし、かつその旨会社の社債の帳簿に記載することが対抗要件となります(365条)。

動産質

 不動産や記名の社債の場合には登記、登録の制度があり、それに質権設定の旨を書いておけばいいのですから対抗要件としてはわかりやすいでしょう。また指図債権の場合には証券に質権設定の旨を書いておけばいいのでこれもわかりやすい。一方、指名債権は通知または承諾ですからこれはちょっと外からはわかりにくい。同じことが動産一般には言えます。
 動産の場合、占有の継続が対抗要件だとされています(352条)。しかし対抗要件というと第3者に対して主張できるかどうかの問題にすぎず、例えば当事者間では対抗要件の問題にはならないはずなのですが、どうもそういう話で終わりそうにありません。この点については、次に述べる「占有を失った場合」の項で詳しく書くことにします。

(2004.8.20改訂)

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