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他人に物理的な損害を与える罪
- 器物損壊罪(261条)
- 他人の物を使い物にならなくした場合に成立します。使い物にならなくすることが別の犯罪になる場合には成立しません。(条文では公用文書毀棄、私用文書毀棄、建造物損壊を明記していますが、成立しないのはこの3つには限りません。)
使い物にならないようにする方法は問いません。明治時代の判例があって「1 物理的に変化・消滅させること 2 事実上・感情上その物を本来の目的に使えなくさせること」とされていますから、物理的に傷つけたり壊すのはもちろんですが、食器に小便をかけること(2のパターン)、学校のグランドに杭を打ち込み、体育の授業をできなくしたこと(これも2のパターン)も器物損壊罪成立です。さらに条文では「他人の物を傷害」とありますが、これは「他人の動物」を想定したものです。典型例はペットに何かするパターンですが、飼っていた池の鯉を川に放流してしまうこともこれに該当して器物損壊罪成立です。
ちなみに、器物損壊罪が基本的に「他人に物理的な損害を与える」罪である以上、物理的に変化・消滅させることで価値の減少をまねけば、「(元の物とは同じ物としては)使い物にならなくした」と言える一方で、「感情上……使えなくなる」という構成要件だとしても、「そう考えるのはあなただけ。」というような場合には、「使えなくなった訳ではない=損害なし」という判断になります。
3年以下の懲役、30万円以下の罰金、科料。
(2005.12.10改訂)
- 公用文書等毀棄罪(258条)
- 官公庁が使用する文書や電磁的記録を破壊した場合に成立します。一時的であっても使用できない状態になれば成立です。
3か月以上7年以下の懲役。
- 私用文書等毀棄罪(259条)
- 他人の権利義務に関する文書や電磁的記録を破壊した場合に成立します。公用文書等毀棄罪の場合を除きます。一時的であっても使用できない状態になれば成立です。権利義務に関しないものについてはこの罪ではなく器物損壊罪です。
5年以下の懲役。
- 信書隠匿罪(263条)
- いわゆる郵便を隠した場合に成立します。隠しただけでも器物損壊罪が成立する程度にまで使い物にならなくなった場合には器物損壊罪が成立して、信書隠匿罪は不成立です。
6か月以下の懲役、6か月以下の禁錮、10万円以下の罰金、科料。
- 信書開封罪(133条)
- 正当な理由がないのに郵便を開けた場合に成立します。
親告罪。
1年以下の懲役、20万円以下の罰金。
- 境界損壊罪(262条の2)
- 土地の境界を壊す、移動する、取り除くなどによって境界がどこかわからなくなるようにした場合に成立します。
5年以下の懲役、50万円以下の罰金。
- 外国国章損壊罪(92条)
- 外国を侮辱する目的で国旗その他の国章を損壊・除去・汚損した場合に成立します。
2年以下の懲役、20万円以下の罰金。
- 建造物損壊罪(260条)
- 他人の建造物や船舶を破壊した場合に成立します。
5年以下の懲役。
- 現住建造物等放火罪(108条)
- 現に人がいるか(人がいないことを確認していても)人が住居に使用している建造物、汽車、電車、艦船、鉱坑に放火してある程度焼いた場合に成立します。ある程度の範囲が争われてきましたが、放火罪は基本的に個々の建物が破壊されることに着目したのではなく「燃え広がるととても危険」であることに着目した犯罪であることから、「消さないと燃え広がるよ」という段階に達すれば犯罪成立としておよいでしょう(独立燃焼説)。
死刑、無期懲役、5年以上の懲役。
未遂処罰あり。
- 非現住建造物等放火罪(109条)
- 現に人がいないし人が住居に使用している訳でもない建造物、艦船、鉱坑に放火してある程度焼いた場合に成立します。現住建造物放火罪と違うのは、汽車と電車が対象から除かれていることです。
これは目的物の所有関係で刑罰が変わってきます。
まず自分の物でかつ公共の危険を発生しなかった場合、具体的には他に燃え広がる可能性がまず考えられないような状況で自分の物を燃やした場合には犯罪不成立です。(2項ただし書)
自分の物で公共の危険が発生した場合は、6か月以上7年以下の懲役。(2項本文)
自分の物でなければ2年以上の懲役。(1項)
1項すなわち自分の物でない場合に未遂処罰あり。
- 建造物等以外放火罪(110条)
- 物に放火して公共の危険を発生させた場合に成立します。しかし108条や109条が成立すればこの罪にはならないのが道理で、条文上も108条や109条の問題となる「建造物、艦船、鉱坑、現に人がいる汽車、電車」は明確に除かれています。また公共の危険が発生しない場合もこの罪は不成立です。
この罪も目的物の所有関係で刑罰が変わってきます。
自分の物であれば、1年以下の懲役、10万円以下の罰金(2項)
自分の物でなければ、1年以上10年以下の懲役。(1項)
- 延焼罪(111条)
- 108条から110条までの放火罪は、物を重要度によって分類し、さらに所有権者や公共の危険の有無で分類して刑罰を定めていますが、放火した側が意図しなかった物にまで燃え広がってしまった場合を110条で処理しています。一種結果的加重犯的な性格をもつと言っていいでしょう。111条1項は、自己所有の非現住建造物等に放火するか建造物等以外の物に放火して公共の危険を発生させ、その結果自己所有でない非現住建造物等や建造物等以外の物に燃え広がった場合に成立します。
3か月以上10年以下の懲役。
111条2項は自己所有の建造物等以外の物に放火して公共の危険を発生させ、その結果自己所有でない建造物等以外の物に燃え広がった場合に成立します。
3年以下の懲役。
- 現住建造物等放火予備罪・非現住建造物等放火予備罪(113条)
- 現住建造物等放火や他人の所有である非現住建造物等放火の未遂にいたる前でも準備をしただけで成立します。
2年以下の懲役。情状により刑の免除可。
- 失火罪(116条)
- 積極的に火をつける故意犯が放火罪であるのに対し、いわば過失にあたるのが失火罪です。1項が現住建造物等及び他人所有の非現住建造物等を燃やした場合、2項が自己所有の非現住建造物等や建造物等にあたらないものを燃やして公共の危険を発生した場合と分けられていますが、刑は結局等しくなっています。構成要件を分けたのはひとえに便宜の問題でして、現住建造物等放火罪の108条や非現住建造物等放火罪の109条1項には公共の危険の発生が構成要件に書かれていないのに対し109条2項や110条では公共の危険の発生が構成要件に明記されていることに対応しているだけのことです。108条や109条1項に明記されていないのは、公共の危険の有無にかかわらずということなのですが、108条や109条1項の場合でかつ公共の危険がない場合ってどんな場合だろうか……ってことも背景にあるのかもしれません。
50万円以下の罰金。
- 業務上失火罪・重失火罪(117条の2)
- 業務上必要な注意をはらわなかった結果もしくは重大な過失の結果として失火罪を犯した場合に成立します。
3年以下の禁錮、150万円以下の罰金。
- 激発物破裂罪(117条)
- 放火ではなく火薬、ボイラーその他爆発するものを爆発させることによって放火罪と同じように対象物を破壊した場合、それぞれの物に対応する放火罪と同じ刑罰が科せられるとする規定です。爆発が過失による場合には失火罪と同じに考えます。
- 現住建造物等浸害罪(119条)
- 出水による場合なんでさんずいの「浸」を使います。放火ではなく水を使って現に人がいるか(人がいないことを確認していても)人が住居に使用している建造物、汽車、電車、鉱坑を水没させた場合に成立します。現住建造物放火罪には含まれている船舶が、出水による本罪には含まれていません。これは端的に126条や127条の問題だからでしょう。
死刑、無期懲役、3年以上の懲役。
- 非現住建造物等浸害罪(120条)
- 放火ではなく水を使って現住建造物等浸害罪に定める物以外の物を水没させ公共の危険を発生させた場合に成立します。放火では非現住建造物放火罪と建造物以外の物の放火罪が区別されていませんが、出水による場合には区別されません。
1年以上10年以下の懲役。
- 水利妨害罪・出水危険罪(123条)
- 堤防を決壊させる、水門を破壊する、その他水利の妨害になるような行為や出水させるような行為をした時に成立します。
2年以下の懲役、2年以下の禁錮、20万円以下の罰金。
- 過失浸害罪(122条)
- 失火罪の出水版というか浸害罪の過失版というか……。
20万円以下の罰金。
- 消火妨害罪(114条)
- おおざっぱに言えば消火作業の妨害をした時に成立します。要件としては「火災の際であること」「消火用の物を隠匿・損壊するかその他の方法で」「消火を妨害」です。
1年以上10年以下の懲役。
- 水防妨害罪(121条)
- 消火妨害罪の水害版。「水害の際であること」「水防用の物を隠匿・損壊するかその他の方法で」「水防を妨害」です。
1年以上10年以下の懲役。
- 往来妨害罪(124条1項)
- 道路、水路、橋を損壊したり閉鎖して通行を妨害した場合に成立します。
2年以下の懲役、20万円以下の罰金。
未遂処罰あり。
致死罪・致傷罪あり。
- 往来危険罪(125条)
- 鉄道、鉄道の標識を損壊するか、その他の方法で汽車電車の通行に危険を発生させた場合に成立します(1項)。灯台、浮標を損壊するか、その他の方法で船舶航行に危険を発生させた場合にも成立します。(2項)
2年以上の有期懲役。
未遂処罰あり。
致死罪あり。
- 汽車・電車転覆・破壊罪(126条1項)艦船転覆・沈没・破壊罪(126条2項)
- 現に人がいる汽車・電車・船舶を転覆・沈没・破壊させた場合に成立します。往来危険罪の結果、汽車・電車・船舶を転覆・沈没・破壊させた場合にも成立します。
無期懲役、3年以上の懲役。
未遂処罰あり。
致死罪あり。
- 過失往来危険罪(129条1項)
- 故意ではなく過失によって汽車・電車・船舶の通行に危険を発生させた場合、汽車・電車を転覆・破壊させた場合、船舶を転覆・沈没・破壊した場合のどれかで成立します。
30万円以下の罰金。
- 業務上過失往来危険罪(129条2項)
- 反復継続するつもりで行う者が、その注意義務をはたさない過失によって過失往来危険罪を犯した場合に成立します。
3年以下の禁錮、50万円以下の罰金。
- ガス等漏出罪(118条)
- ガス・電気・蒸気の漏出・流出・遮断によって人の生命・身体・財産に危険を発生させた場合に成立します。
3年以下の懲役、10万円以下の罰金。
致死罪・致傷罪あり。
- 浄水汚染罪(142条)
- 人の飲み水に使う井戸・泉の類を汚して使用できなくした場合に成立します。
6か月以下の懲役、10万円以下の罰金。
致死罪・致傷罪あり。
- 浄水毒物等混入罪(144条)
- 人の飲み水に使う井戸・泉の類に毒物や人の健康を害するような物を入れた場合に成立します。
3年以下の懲役。
致死罪・致傷罪あり。
- 水道汚染罪(143条)
- 水道や水道の水源を汚して使用できなくした場合に成立します。
6か月以上7年以下の懲役。
致死罪・致傷罪あり。
- 水道毒物混入罪(146条)
- 水道や水道の水源にに毒物や人の健康を害するような物を入れた場合に成立します。
2年以上の有期懲役。
致死罪あり。
- 水道損壊・閉塞罪(147条)
- 水道を破壊したり詰まらせた場合に成立します。
1年以上10年以下の懲役。
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