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3 違法性は違法性阻却事由が存在しないこと

 構成要件該当性が認められると次は違法性の判断になるわけですが、違法性の有無の判断は「これがあると違法性はない」とする違法性阻却事由があるかどうかを検討し、もし違法性阻却事由があれば違法性はないと判断し、逆に違法性阻却事由がなければ違法性があると判断することにしています。
 これは理由がありまして、もともと構成要件というのは誰がどんな状況下において行っても犯罪となる行為のカタログな訳ですから、よほどのことがない限り犯罪が成立しても不思議ではないわけで、構成要件に該当する行為というのは同時に違法性の存在をも推定することになるからです。で、そのよほどのことを違法性阻却事由として別途あげることにし、それがない限り推定される違法性はくつがえらないとしているのです。
 さてその違法性阻却事由ですが、次のとおりです。

(1)法令行為・正当業務行為(刑法35条)
 法令の定めのとおりに行った行為や法令で定められた権利の行使や義務の履行として行われた行為については違法性が阻却されます。ただし注意しなければならないのは、法令の定めによる行為や権利・義務による行為の全てが違法性を阻却する訳ではないことです。たとえば自分の借金を取り立てる行為は権利の行使にあたるわけですが、度をすぎれば犯罪になるのは当たり前の話であって、違法性を阻却しないのは言うまでもないでしょう。

(2)正当防衛(刑法36条)
 急迫不正の侵害に対し、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為については違法性が阻却されます。私も時々勘違いするのですが、違法性阻却事由の判断をする前提というのは、構成要件該当性がある行為であるということですから、構成要件該当性がなければその時点で犯罪不成立になるので、正当防衛の議論をするのは無駄ということです。
 さて、正当防衛成立の要件を詳しく見ていくことにしますが、まず自己又は他人の権利の侵害がなければいけません。
 次にその侵害は、不正なものでなければなりません。逮捕状を示された被疑者が逮捕されることに抵抗することは、自分の身体的自由の侵害に対するものとは言えるのですが、たいていの逮捕状の執行は不正とは言えないでしょうから、これに対する抵抗は正当防衛にはならないのです。
 さらに「急迫」な侵害でなければなりません。まさにこれから行われようとする侵害や現に行われている侵害であれば正当防衛を認めますが、もうとうの昔に終わってしまった侵害に対する対抗措置(普通「復讐」と言うでしょうが)や、未来の侵害を予想して行う対抗措置(普通「先制攻撃」と言うでしょうが)には、正当防衛を認めないのです。(もっとも同じ未来の侵害を予想した措置であっても、先制攻撃とは言い難いもの、例えば自分の畑に電流も流れる有刺鉄線を張るような行為は、仮に侵害がなければ何もおきないので、急迫性はあると判断します。)
 最後にやむを得ずにした行為でなければなりません。具体的にはまず侵害を排除するためのその程度の行為であることが要求されます。侵害の排除とは関係ない行為は正当防衛にはなりませんし、侵害の排除に必要な限度を超える行為はそれだけで正当防衛が否定されます。また相手の侵害と正当防衛による相手に与えた侵害とを比較して多少相手の侵害を超えた程度であればまだ正当防衛が認められますが、相当差が出るようだと正当防衛は否定されます。

(3)緊急避難(刑法37条)
 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるためやむを得ずにした行為であって、かつその行為による害が危難による害を超えない場合には違法性が阻却されます。ただし犯罪を成立させないための要件である点については刑法に明文の定めがあるため争いはないのですが、その位置付けについては違法性阻却事由とする説と後で述べる責任阻却事由とする説があって、私個人は責任阻却事由説に賛同しているとことなのですが、ここではとりあえず違法性阻却事由として説明しておくことにします。
 さて、正当防衛と緊急避難とは、緊急事態における一定の場合には構成要件に該当するような行為であっても犯罪にはしないという点で共通しております。
 しかし、次の点が異なります。
 緊急避難が認められるためには、その行為が危難を避けるための唯一の方法であって、他に方法がなかったことが要求されます。正当防衛の場合でも上で述べたように一定の限度を超えないことが要求されますが、唯一の方法であることまでは要求されません。この背景には、正当防衛の場合には相手の侵害がもともと不正な訳ですから、反撃で多少の被害を被るのも仕方がないのに対し、緊急避難の場合には、不正とは言えない相手に被害を与えるのだから、その被害は最小限でなければならないという考え方があるのです。
 また加えられた被害と緊急避難による被害とを比べた結果、緊急避難による被害の方が小さいことが要求されます。これもやはり緊急避難によって被害を受けるのは不正でもなんでもない人だという点からでして、もし自分の被害を避けるためにより大きな被害を他人に与えるのであれば、それはさすがに許すわけにはいかないという判断がそこにはあります。多少のことなら我慢しなければならないとされる正当防衛の場合との違いなのです。
 ちなみに、法学部などの試験で「何罪にあたるか?」という問題が出された場合には、出題の意図が違法性阻却事由を論じさせるものでない限り、違法性阻却事由がないことをわざわざ書く必要はありません。


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