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債権回収時までにできること
前にも書きましたが、質権には留置的効力が認められます。「借金を払うまでは返さないぞ」というのが通るのですし、物権ですからこれは誰に対しても認められます。もっとも物権というからには他の物権とのからみは出てくるのでして、当該質権に優先する担保物権の実行の際にさすがに「渡さない」という訳にはいかなくなります。優先しなければもちろん渡さなければよいのですし、新たな所有者に対しても質権を根拠に引き渡しを拒否できます。
物権的請求権のうち回収の訴えができないことは既に述べました。しかし、妨害排除請求や保全請求は認められます。質物に対して第3者が不法行為を行えば損害賠償請求できるのも言うまでもありません。質権の力として質権者が質物の交換価値を把握する力を認め、その交換価値を低くするような行為に対し対抗することができるという考え方がその背景にあります。このことから債務者の側でも質物の交換価値を低くするような行為をしてはならないことが導かれ、債権質において債務者が勝手に債権を弁済したり、その他の理由で消滅させてはいけない義務につながります。
他の一般債権者が差押をすることはできません。また質権設定者から質物の返還請求をされても、裁判所は請求棄却判決を出すべきだとするのが通説判例の立場です。同じ留置的効力を持つ留置権の場合には引換給付判決が出るのとは異なります。(でもこの点は質権の方が直感的にわかりやすいかも。)
不動産質に限っては質権者が当該不動産を使用することができ、不動産からの収益を手にすることができます。この使用は自らしてもいいですし、第3者に使用させてその収益を得ることでもかまいません。第3者に使用させる場合、質権が消滅すると直ちに不動産を返還しなければなりません。当該不動産を借りている第3者にしてみれば、借地借家法を持ち出したくなるところですが、現行法上は質権の消滅の方が優先すると解されています。使用収益が利息に相当するのですから、不動産質権では利息は担保されないし、収益を計算して利息と清算する必要もありません。元本に充当する義務もないのです。これに対し、動産質や債権質では(質権者の承諾なしに)使用収益することは認められません。これに関連し、不当な占有者に対して、質権に基づく明渡請求ができます。こまかい話になりますが、既に使用収益している不動産について不動産質権をつけることも可能です。この場合、あたかも「当該物件の売却により貸主が交替した」かのような状況が発生します。そしてこの状況については、新貸主(不動産質権者)が借主に賃料を請求する際に、登記が必要か否かという問題が提起されている(ちなみに判例は対抗要件ではないけど二重払い防止のために登記を必要とするという見解ですが、学説は対抗要件として要求する説や、一切不要とする説があります)のと同様に、何かやらなければ賃料をもらえないのかという疑問がだされています。これについてはまず不動産質権の対抗要件は必要だとされます。しかしこれに加えて賃料債権の譲渡についての対抗要件が必要かについては説が分かれています。不動産質権には使用収益権が当然に含まれることを重視すると、不動産質権の登記がある限り「使用収益できるのは当たり前」ということになって、賃料債権について別途対抗要件を備える必要はないというあたりに落ち着きそうです。
ちなみに……。不動産質権がついた不動産でも、さらに抵当権をつけることは可能ですし、当然抵当権の実行としての競売ができます。競売では一般に、後順位債権者の申し立てであっても、一番先頭の担保権より後の物権変動は全部消えてしまうのですが、最優先の不動産質権だけは消えません。というのも、不動産質権による使用収益を許すため、いわば最優先の担保権に優先する用益物権(たとえば地上権等)がある場合にその用益物権は消えず、新しい所有者でその用益物権を認めないといけないことと同様に、不動産質権も消えないということになるのです。そうすると不動産質権は一方で担保物権であり、留置的効力が認められることから、競売された後の新しい所有者に対しても、不動産質権を主張することができますし、借金を返さないと質権を消さないと言うことが可能となります。
なお、果実を債権回収にあてることは可能です。果実というのは「くだもの」ということではなく(とはいえイメージとしては外れではない)法律上の用語で、元の物から発生した新たな物をさします。例えば果樹園にあるりんごの木は秋になると実をつける訳ですが、この実のことを(自然)果実と言いますし、銀行にお金を預けると利息がつきます。これは(法定)果実です。加えて必要費や有益費の返還請求もできます。
物上代位
担保物権で担保となった物Aの対価として、もしくは何らかの事情によってAに関して発生した物Bがある場合に、Bについて担保としての効力を持たせることができることを、物上代位と呼んでいます。
質権でも物上代位が認められます。
とはいえ、賃貸による賃貸料というのは、質入れ前に債務者(質権設定者)が貸主になっていて賃貸料を受け取る地位にあったとしても、質入と同時に貸すことができなくなり貸主でなくなりますから議論する余地がなく、債権者(質権者)が債務者(質権設定者)の承諾を得て賃貸した場合は賃料を弁済にあてることができるものの、差押が不要なので、わざわざ物上代位と構成する必要がありません。また質入された動産が売却されてしまうこと自体が考えにくですし、何らかの事情でそういうことがあったとしても、質権は消滅しない以上、新しい所有者に対して相変わらず質権を主張できるので、これまた物上代位を考える必要がありません。
株式質における利益配当請求権については意見が分かれています。果実だとして肯定する意見と,商法209条の反対解釈として否定する意見があります。
実際に使われるのは質物が滅失・毀損した場合の損害賠償金や保険金でしょう。
債権譲渡
質権で担保された債権であっても、債権者は誰かに譲渡することができます。この場合、質権も同時に譲渡されたことになります。もっとも当事者が別の定めをすればその定めによります。対抗要件については、債権・質権ともに必要で、もし対抗要件がなければ対抗できません。
(2004.8.30改訂)
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