る〜ちゃんの言うとおり,最近,「偽装質屋」という言葉がニュースで流れています。これから説明するとおり,偽装質屋自体質屋とは似ても似つかぬもので,きちんとした定義などできない……というか,無許可で違法な金利をとって貸す「ヤミ金」とどこが違うんだ?という話なので,偽装質屋という言葉を別の意味で使っている人がいても不思議ではないということはまずおさえてください。
さて,よく言われている「偽装質屋」ですが,おおむねこんな特徴を持っています。
今,る〜ちゃんが言ったとおり,「物を預かってお金を貸す商売」が質屋だとすれば,「偽装質屋」だって質屋ですから「偽装」はいりません。ところが,偽装質屋には質屋の特徴が実は全然備わってないのです。
詳しくは「公益質屋」のところで触れていますが,日本で質屋を商売として営むためには,「質屋営業法」による質屋であることが必要なのです。具体的に言うと,質屋営業法1条2項は,「「質屋」とは、質屋営業を営む者で第2条第1項の規定による許可を受けたものをいう。」とあるんで,まず何より質屋としての許可をとらなければならないのです。そして「質屋営業」とは何かというと,1条1項で「「質屋営業」とは、物品を質に取り、流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは、当該質物をもつてその弁済に充てる約款を附して、金銭を貸し付ける営業をいう。」とあります。物を預かってお金を貸すだけではだめで,「期限にお金を返さない時には質物を取り上げる」ことまで約束しないとだめなんです。加えて平成23年8月25日名古屋高裁判決では,「質物を取り上げた時には,金銭消費貸借債務も消滅する」ということまでワンセットにしたのが質屋で質物を質に入れてお金を借りる「質取引」であると定義付けました。言い換えれば「期限までにお金を返さなかったら,質物は取り上げられる代わりに,借金も消滅する」のが,営業質屋で質に入れてお金を借りることの法的意味なのだとしたのです。
ところが偽装質屋は,今言った質屋の特徴を備えていません。質屋としての許可はまず間違いなくとっていません。「期限にお金を返さない時は質物を取り上げる」契約でもありません。そして,「期限後質物を取り上げたら借金もなくなるから取立もなし」ではありません。
だからこその「偽装」質屋なんでしょうが,これだけ違うものを「質屋」というにはそもそも抵抗があります。
さらに,問題はあります。
下級裁判決では,質取引なるものを認めず,金銭消費貸借である以上は一律に利息制限法の適用を受けるのであって,年利15〜20%を超える利息をとることができないとしているものも複数あります。
しかし,高裁ではありますが,名古屋高裁の平成23年8月25日判決が,質取引という概念を認め,質屋営業法の沿革や立法府での審議経過をふまえて,営業質屋に質物を質入した上での金銭の借入には利息制限法の適用がないと判断しております。この点は,通説も同様の見解です。将来判例統一のため同じ問題が最高裁で議論となって,違う判断が示される可能性は否定できませんが,それまでの間は,上で述べた名古屋高裁判決がリーディングケースになると思われます。名古屋高裁判決は,質屋営業法の沿革と立法府での審議経過を根拠に,利息制限法の適用を排除していますが,いずれにせよ,これはあくまで営業質屋が,「期限までに払わなければ質物を取り上げてそれで終了」という契約において認められるものであって,そうでない場合には利息制限法の規制がかかると解している(例えば営業質屋が無担保の貸付を行った場合)点もまたほぼ一致していると言っていいでしょう。
そうすると,流質をそもそもしなかったり,あくまで請求を続けるような金銭消費貸借契約には,高利を取る根拠がなくなるのも理解できるでしょう。
くわえて,通帳や印鑑を預かるのは,特にそれが年金受取口座や生活保護費受取口座だった時に,法が禁止している「年金担保貸付」「生活保護費担保貸付」そのもので,論外です。
こうして見ていくと,偽装質屋というのは実は質屋でもなんでもない,単なるヤミ金にすぎないことがわかってもらえると思います。