自分の銀行口座にいつのまにか知らない所からお金が振り込まれ、数日たつとそのお金と利息とを請求する電話がかかってくる。断ると脅迫される……。押し貸しとも言われる無理が実際には起きているようです。
そもそも銀行口座番号・口座名・連絡先電話番号(及び住所、場合によっては家族構成)のセットになった情報がないとこういうことはできる訳がないので、何らかの形でどこかから借入をした、少なくとも借入の申込をしたことがあって、その時の情報が流出しているというのが背景にあります。
さてこの問題を考える時に、「金銭消費貸借契約」は絶対に成立しないということはおさえておかなければなりません。確かに金銭消費貸借契約は要物契約であって実際にお金を渡さないと成立しないとされていますが、これは「契約+物」が必要だということであって、物があればそれだけで成立するというものではありません。合意がなければ契約はあり得ませんし、受け取ったからと言って合意があったことにはなりません。
したがって問題は、「振り込まれたお金をどうするか」という点に絞られます。
この点学説判例は必ずしも明らかではありません。
銀行口座を間違えて振り込んで場合には、民法の不当利得の規定が適用になって、返還義務が発生すると解されています。したがってあえて意図的に振り込んだ場合まで不当利得になるのかどうかが最大の問題点になるでしょう。
ただ実態からバランス論で考えると、不当利得返還請求権を認めていい事案だとは到底思えません。そしてこれが商品である場合には、特定商取引に関する法律59条1項が適用になって、14日以内に引き取っていかない場合には、業者の方から返還を請求することができなくなるのですから、金融業者については金銭がまさに商品な訳ですから(実際そううたっている消費者金融業者もいるわけですし)この条項を類推適用して一定期間経過で返還請求を否定するということが妥当な解決であるように思います。(なお、戒能通孝「法律パズル」日本評論社は、この規定がなくても当然返還義務はないという立場です。)
この問題の相談窓口もいまひとつはっきりしません。消費者センターは有効な解決策を持っていないようです。金融業者の登録をしていれば監督官庁である都道府県なり財務局が相談にのってくれますが、登録をしていない場合には、監督官庁の力にも限界があります。一方取り立てが犯罪の成立にいたるようだと警察も動きますが、そうでないとなかなか動きません。(個人的には義務のないことをさせようとしているのですから立派に脅迫罪・強要罪・恐喝罪が成立するように思うのですが……。)
弁護士に相談するのが今のところ穏当のようです。実際弁護士によっては「一切返すな、相手にするな」というアドバイスをしている例もあるようです。