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刑事司法手続の流れ
捜査
犯罪になるようなことがおこったかどうか調べます。
1 捜査機関
捜査を行う機関は、その多くは警察ですが、一定の範囲の事件について捜査を行う機関が警察以外に存在しています。海上で行われた犯罪について捜査できる海上保安庁、薬物犯罪について捜査できる厚生労働省麻薬取締官事務所などがあります。
またこれらの捜査機関が1次的な捜査機関とされているのに対し、検察庁が2次的な捜査機関とされています。これは刑事訴訟法上の規定の違いからで、1次的な捜査機関が「犯人及び証拠を捜査するものとする」(189条2項)に対し、2次的な捜査機関は「必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査することができる」(191条1項)となっています。
2 司法警察職員
捜査をする機関と言っても正確には組織自体に権限が与えられているのではなく、組織に属している者を「司法警察職員」とした上で司法警察職員に権限を与えています。たとえば警察官であれば、行政機関としての警察の仕事をする他、捜査等に従事する際には司法警察職員として仕事をすることになるのです。
なお、司法警察職員には「司法警察員」「司法巡査」の区別があり、若干権限が異なっています。
3 捜査のきっかけ(端緒)
なんでもかまいません。捜査機関が自ら動いてもいいですし、誰かからの行為をきっかけに動いてもかまいません。
刑事訴訟法上規定があるのは「告訴」「告発」です。
告訴は、犯罪によって被害を受けた者やその親族等(刑事訴訟法231条以下で範囲が定められています)が、捜査機関に対し、犯人の処罰を求めるものです。告発は犯罪事実を申告して裁判を行うよう求めるもので、誰でもすることができます。
告訴と告発は「誰ができるか」という点での違いがあり、そのためその後の刑事手続でも若干の差が出てきます。
また一定の犯罪については告訴のあることが刑事裁判を始めるための要件になっています。このような犯罪を親告罪と呼んでいます。何が親告罪になるかは刑法など処罰を定めた条文の方に書いてあります。
なお、被害届の提出は必ずしも告訴にはなりません。
4 任意捜査と強制捜査
任意捜査というのは、他人の権利を侵害しないような捜査や仮に侵害するとしても侵害する相手の同意の下に行われる捜査をさします。一方強制捜査というのは、他人の権利を侵害するような捜査で相手の同意なしに行うものをさします。強制捜査については権利侵害をともなうものですから、裁判所の許可(具体的には裁判所に対し令状の発付を請求し、裁判所が許可する場合にはその令状を捜査機関に対し発付することで行います)を得て行わなければなりません。これが憲法33条や35条の定める「令状によらなければ、逮捕されない」「捜索又は押収は……各別の令状により、これを行う」とする「令状主義」です。
特に身体拘束をともなう強制捜査について
逮捕・勾留というのは捜査機関の捜査の必要によって認められるものです。逮捕・勾留自体が処罰ではありません。
1 逮捕
犯人の身柄を拘束する最初の手続です。犯罪を行ったと疑うことに十分な理由があれば認められます。刑事訴訟法199条1項ただし書では30万円以下の罰金・拘留・科料にあたる罪については住居不定や捜査機関に対する出頭要請に応じない時に限定されていますが、それ以外の罪についてはそのような制限がありません。交通違反でも多くの違反がこの制限に該当しないため、逮捕の対象となります。
逮捕には、緊急逮捕と現行犯逮捕、さらにそれ以外の通常逮捕があります。
現行犯逮捕は刑事訴訟法212条以下によるもので、基本的には「現に犯罪を行っている者、犯行直後の者」を逮捕する場合には、令状なしに誰でも逮捕することができます。ただし司法警察職員でない者が逮捕した場合には、すぐに司法警察職員に引き渡さないといけません。またどうも犯罪を行い終わったばかりというような人が犯人だと名指しされて追われていたり、犯罪の証拠になるようなことが外見からすぐわかるような場合であったり、なにか問いかけたら逃げ出したような場合など、212条2項各号にあたるような場合にも現行犯逮捕ができます。
憲法33条は現行犯逮捕を明文で認めております。
緊急逮捕は、一定の重大な犯罪(死刑・無期懲役・無期禁錮・3年以上の懲役・3年以上の禁錮を科すことができる犯罪)について、犯罪を行ったと疑うに足る十分な理由があり、かつ令状を求める余裕がない場合に認められるものです。後で必ず令状の請求をしなければなりませんし、その結果令状が出なければ直ちに釈放しなければなりません。また緊急逮捕をしておいて令状請求をしないで釈放するということも許されません。
通常逮捕は現行犯逮捕でも緊急逮捕でもない通常一般的な逮捕手続です。事前に令状の発付を受けて逮捕するものです。
逮捕による身柄拘束時間は、最大72時間です。これは正確には2段階あって、1次的な捜査機関(警察等)は48時間以内に検察庁に送致しなければならず、検察庁は送致を受けてから24時間以内に裁判所に対し勾留請求をしなければなりません。マスコミでは検察庁への送致を「送検」と呼んでいますが、これは法律上の用語ではありません。また「容疑者」という言い方をマスコミはしますが、これも法律上の用語ではありません。刑事訴訟法や実務では「被疑者」と呼びます。
2 勾留
逮捕された被疑者について、さらに捜査の必要のために身柄拘束を続ける手続を言います。逮捕なしに勾留することはできません。(逮捕前置主義)
検察庁から裁判所に対し勾留の請求があると、裁判所では捜査記録を読み、被疑者から直接事情を聞いて(勾留質問)勾留状を発付します。
勾留の期間は原則10日で、たいていの犯罪ではさらに10日間の延長が認められます。勾留されてから延長されれば20日以内に、延長されなければ10日以内に起訴するか、被疑者を釈放しなければならないのです。
なお違う字を書くんだけれども「勾留」と同じ音の「拘留」という言葉があります。「拘留」は刑罰の一種で1日以上30日未満刑務所に収容するものを言います。しかし現在はほとんど実例がありません。
マスコミでは「拘置」という語を使っていますし、確かに「拘置所」という法務省の施設はあるのですが、逮捕に続く身柄拘束のことを指すものとしては、やはり法律上の用語とは言えないでしょう。
3 弁護人について
現在の日本の法制度では、被疑者段階、すなわち逮捕・勾留されている段階においては、弁護人の選任は要求されていません。したがって,被疑者自身が希望せず,また,親族等一定の範囲の人が弁護人を選任しなければ,弁護人がつかないまま起訴までの手続が進んでいくことになります。
被疑者自身が希望した場合ですが,一定の犯罪について,検察官が裁判所に対して勾留を請求した後に,国選弁護人を選任することになりました。これを被疑者国選弁護人と呼んでいます。一定の犯罪というのは,法律の条文で「死刑」「無期懲役・無期禁錮」「刑の長さの上限が3年を超えている懲役・禁錮」のいずれかの刑罰が定められている犯罪を指します。もしこれに該当しなければ仮に請求しても裁判所が必要だと認めない限り,被疑者国選弁護人は選任しないこととなります。
被疑者国選弁護人が選任されないような場合,各地の弁護士会では当番弁護士制度等によって被疑者側からリクエストがあれば1回だけ無料で面会することにしているようですが、リクエストがなければ動きません。また弁護士が主な構成員になっている法律扶助協会は、被疑者段階でも一定の場合に弁護人をつけてくれますが、これも被疑者側のリクエストが前提ですし、また法律扶助協会側の審査を通る必要があります。
この現行制度は2009年にスタートしたもので,その前に比べれば,被疑者段階における適正な司法手続が実現されるようになったとは言えますが,いまだ問題の完全な解決に至っていないと問題視する声もあり、さらなる改革案が示されたりしています。
4 接見禁止
事件によっては、勾留で身柄を確保しただけでは、なお証拠隠滅の可能性がある場合に、被疑者への面会や物の差入を制限する「接見等禁止」の決定がされることがあります。
5 二重逮捕・二重勾留
逮捕や勾留の効力は原則としてその逮捕勾留の対象となった事実にだけ及びます。これを事件単位説と呼んでいます。事件単位説の結果、別の事実でさらに逮捕勾留することができるという結果になりますし、場合によっては1人について2つ以上の別々の逮捕勾留が行われることもあります。
起訴
検察庁が裁判所に対し、刑事訴訟を始めるよう求める手続を「起訴」と言います。起訴された人間を被告人と呼びます。被告ではありません。マスコミでは被告と言っていますが、裁判では「被告」というのは民事訴訟において訴えられた人をさします。民事訴訟で訴えた人が原告になりますが、刑事訴訟では原告とは言いません。刑事訴訟を起こすのが検察官ですから、単に検察官と言います。
1 起訴時の手続
起訴をするのは検察官に限られます。例外は刑事訴訟法262条1項による付審判請求により266条2号の付審判決定がなされた場合ですが、これはきわめて珍しいケースで、いずれにしても一般人が起訴をすることはできません。これを検察官起訴独占主義と言います。
また検察官は、起訴をするかどうかについて判断し、起訴をしないですませることもできます。これを検察官起訴便宜主義と言います。起訴をしないということであっても「不起訴(まず間違いなく将来も起訴しない)」「起訴猶予(とりあえず起訴しないが、将来にわたって起訴しないとまでは言わない)」「処分保留(そういう判断すらしない……とりあえず保留)」の区別があるとする指摘もあります。仮に告訴告発があったからといって、検察官は必ずしも起訴しなければならないというものではないのです。
起訴に際しては、証拠になるような書類はもちろんのこと、裁判官が予断を抱くような書類を添付したり、起訴状に記載することが許されません。起訴状には「起訴状」という標題、日付、宛先となる裁判所名、検察官の庁名・職名・氏名・押印、起訴する旨など定型的な文言の他、被告人の特定要素として氏名・生年月日・職業・本籍・住所を書き、さらに起訴の対象となった事実(公訴事実と言います。)を、犯罪の構成要件に即して簡潔に書きます。余計なことは書きませんし、場合によっては書くことで起訴自体違法になってしまいます。起訴状には予断を抱かせるような事項を書いてはならず、また予断を抱かせるような書類を添付してはならないとするのを起訴状一本主義と言います。
逮捕勾留された者が時間制限内に逮捕勾留された事実で起訴された場合には、勾留の期間は起訴日から2か月となり、さらに決定で1か月ずつ延長されていくことになります。その結果逮捕勾留された者がそのまま起訴された場合、裁判が終わるまで身柄拘束が続くことが結構あり、「被告人の身柄を人質にとって裁判をしているようなものではないか?」といういわゆる人質司法ではないkという批判があります。
ちなみに逮捕勾留された事実以外で起訴された場合や、身柄の拘束は解かれているものの、新たに身柄の拘束を必要とする場合には起訴時にあらためて勾留質問を実施し、勾留状を発付することが多いでしょう。
2 起訴後の手続
起訴時には起訴状謄本が検察庁から提出されますので、これを被告人に送り、刑事訴訟が始まったことを知らせます。その際、弁護人について自分で選ぶのか(私選弁護人)国に対して選ぶよう請求するのか(国選弁護人)弁護人を選ばないで訴訟に臨むのかを書面で回答するよう求められることが多いと思います。私選弁護人も国選弁護人も等しく弁護人ですから手続の中では差はありません。また弁護士によって国選弁護に対する考え方が違う場合がありますが(というかたくさんいるんですから違う考えの人がいて当たり前です)まさに人による部分が大きいので「私選だから……国選だから……」というより「○○弁護士だから……△△弁護士だから……」という方が正しいかもしれません。私選と国選の違いとして間違いなく言えるのは「国選弁護人は被告人の側で誰々をお願いすると具体的に指名することはできないし、決まった人を解任することも特別な理由がない限り無理。」というものです。
なお、「死刑・無期懲役・無期禁錮・3年以上の懲役・3年以上の禁錮」を科すことができる犯罪については、弁護人なしで裁判を行うことができません。(刑事訴訟法289条1項)
その後、弁護人を決めたり、第1回公判期日を決めたりして、裁判の当日を迎えるのです。
保釈
勾留されている被疑者・被告人について、釈放させる手続です。
刑事訴訟法89条では一定の事由がない限り保釈を認めなければならない(権利保釈)とされていますが、その一定の事由の中に「罪証隠滅のおそれあり(刑事訴訟法89条4号)」があるため、多くの場合これに引っかかるとも言えます。さらに90条で裁判所の職権で保釈を認めることもできます(裁量保釈)が、多くはこちらにあたるでしょう。保釈は申請されれば必ず認められるというものではありません。
保釈に際しては保釈保証金として裁判所の口座にお金を預ける必要があります。その金額は事件の重大性で変わるのですが、一方で「逃げたら没収するよ」という意味で預けるものですから、被告人が逃げないような金額であればよく、被告人や周囲の財産によって変わる面もあります。なお、保釈保証金は被告人が逃げないで無事判決を迎えると、有罪無罪実刑執行猶予を問わず返還されます。
公判期日
いわゆる裁判の日です。法廷で行われます。
最近はマスコミの好きそうな事件で開廷前の様子がTVで流れるようになりました。正面高い方に座っているのが裁判官で、正面低い方に座っているのが書記官です。時には横に速記官がいるかもしれません。正面の右か左の奥の方に座っているのは裁判所において研修中の司法修習生であったり、法廷内の事務を取り扱う事務官です。向かって左側に座っているのが検察官、向かって右側に座っているのが弁護人です。TVでは被告人はまず映らないはずです。被告人は弁護人の前に座ったり、正面手前側の席に座ったりします。正面中央付近のいかにも証言台のような席は、証人や被告人から話を聞くときに座ってもらう席です。
裁判官の数は事件によって異なります。まず条文に書いてある刑を見た時に1年未満にできないような犯罪の場合には、必ず合議で審理しなければなりません(裁判所法26条2項2号)。合議は普通3人ですが重要な事件や裁判官の交替が予想される時に、臨時的に増員されることもあります。また合議でやるべきだとなった事件も合議で審理します(26条2項1号)。それ以外は単独制、すなわち裁判官が1人で審理します。
1 人定質問
裁判官が被告人の本籍・住所・氏名・生年月日・職業を聞いて、起訴状に記載された本人かどうかを確認します。
2 起訴状朗読
検察官が起訴状の公訴事実と「罪名罰条」のところを朗読します。
3 被告事件に対する陳述
裁判官が黙秘権の告知をした上で被告人に意見を聞きます。さらに弁護人にも聞きます。マスコミでは「罪状認否」という表現を好んで使います。アメリカの裁判制度だとこのでの意見の具合で簡単な手続に移行しますし、日本でも「簡易公判手続」というシステムがありますが、数的にはそれほど利用されていません。日本の場合、被告人側が何か争う時にその何かを言わせることで裁判の争点が明らかになるくらいの意味しかないでしょう。
4 検察官による冒頭陳述
これから証拠調べに入るのですが、証拠調べの冒頭で、検察官が証拠によって証明しようとする事実を概略説明します。これを冒頭陳述と呼んでいます。起訴状より詳しい事情がここで明らかになります。
5 証拠調べ
冒頭陳述の締めくくりに検察官が「以上の事実を立証するため証拠等関係カード記載の各証拠の取り調べを請求します」と言って、証拠等関係カードなる書面(カードと言ってもA4サイズの普通の紙)を提出します。これに対し弁護人が意見を言います。「同意」というのは書面について証拠として取り調べることに対し、本来は刑事訴訟法320条1項の伝聞証拠にあたるので取り調べてはいけないんだけど、326条による同意を与えるから取り調べてもらってもいいですよという意見です。「不同意」は書面について326条の同意を与えないから取り調べるなという意見。「異議なし」は書面や証人以外の証拠(証拠物とも言います)について、取り調べてもいいよという意見、「しかるべく」は証人について取り調べてもいいよという意見、「異議あり」は書面以外の証拠について取り調べるなという意見です。
場合によっては「不同意」や「異議あり」という意見のものについて別の根拠条文による取り調べを請求したり、それに対しさらに意見を言うなどのやりとりを行うことがありますが、最終的に裁判所が取り調べる旨を決定して、具体的な取り調べに入ります。
取り調べ方法ですが、書面については全文朗読が原則ですが、実際にはただし書きの方を使って全文朗読に代えてその要旨を述べることで行っています。証拠物については法廷で実際に見せます。証人については法廷で質問し答えてもらうことになります。
よく言われることに「悪いことをしてしかも本人も認めているのに何を弁護する必要があるの?」というものがあります。これに対する最大の答は「有罪判決が確定するまで被告人は無罪を推定される」という刑事訴訟の大原則を答えるべきなのですが、テクニカルな理由としてたとえばこのような証拠調べの手続の際に、普通の被告人はどう答えていいかわからない、訴訟手続を的確に理解することができない、それは人権保障という点でまずいだろうというのがある訳です。「被告人に人権はない」?自分が何もやってないのに刑事裁判になったらどうします?
証拠調べの最後には被告人に対する証人尋問(変な言い方ですがこれが一番わかりやすいんじゃないかな。実務では当然証人尋問とは言いません。被告人質問と言います。)が行わるのが通例です。
6 検察官の意見(論告求刑)
証拠調べが終わると検察官が意見を述べます。たいていは被告人の行為の悪さを述べ、被告人の態度等から重い処罰が必要だということを述べた後、具体的な刑期を述べます。違う用語を使いたがるマスコミですが、なぜかこれについては「論告」「求刑」という語をそのまま使います。
7 弁護人の意見
弁護人は無罪主張をする場合には、検察官の主張立証に合理的な疑いがあることを指摘しますし、認めている事件であれば、被告人に有利な事情を指摘して軽い刑を求めることになります。
8 被告人の最終陳述
一番最後に被告人に言いたいことを簡潔に述べてもらいます。
9 よくある誤解
裁判の実情をよく知らない総理大臣が裁判が長くかかると思い込んでいるようですが、実はこれ国民の間に広まっている思い込みだと思います。(その点では国民を代表している首相なのかもしれない。)
日本の裁判のほとんどは公判期日1回で終わっています。あとは判決宣告日を別途指定して合計2回で終わり。起訴から数えたって3か月以内でたいてい終わります。(数でみたら2か月で終わるのが一番多いのかもしれません。)
でも一方でこんなに早く終わるのは、証拠調べの際にたいていの証拠について「同意」するからだということも言えると思います。そうすれば今の刑事訴訟法では別の根拠条文を出して書面を証拠にすることに成功しない限り、証人を連れてこなければならないということになります。書面を証拠にするより証人を証拠にする方が何倍もの時間がかかるということは容易に想像つきますね?
「裁判で真相を究明せよ」と言いつつ「もっと早く」というのであれば、どの程度のことをどこまで証明するかということもあわせて考えないといけませんし、今の刑事裁判は必ずしも真相を究明する場ではありません。
ところで真相って何?
判決宣告
裁判官が判決を宣告します。
ちなみに判決を宣告する際に、判決書ができあがっている必要はありません。
よく巷間「被告人を……と言えば有罪、被告人は……と言えば無罪」と言われますが、これはおおむね正解です。有罪判決は「被告人を懲役1年に処する。」のように、無罪判決は「被告人は無罪。」という主文にするのが通例なんでその限りでは正解です。しかし刑事の判決はきわめてレアですがこれ以外の判決になることもあるんで、その分が外れなのです。
また死刑判決は主文を先に言わないで理由から先に言うとも言われていますが、これは絶対ではありませんし、現に主文から先に言った例もあります。
なお事件によっては裁判官が被告人に対しお説教したりはげましの言葉をかけることがあります。
有罪判決の場合には、控訴ができる旨、さらに「2週間以内に高裁あての控訴申立書をこの裁判所に出すように」というようなことを述べて判決宣告が終わります。
執行猶予や保護観察についてはこちらをどうぞ。
訴訟費用というのは、国選弁護人に支払う報酬や、証人に支払った日当を言います。負担を命じられることもありますし、負担しなくてもいいという判断が示される(この場合には理由の中でその旨述べられます)こともあります。
有罪判決が確定したら
まず判決に不服がある場合には控訴することができます。控訴の期間は判決宣告から2週間です。控訴のできる期間が経過してはじめて判決が確定するのです。
とはいえ執行猶予付きの判決であれば、確定したから何が変わるというものではありません。もっとも刑務所に行かなくて済んだというためには、執行猶予の期間中犯罪を犯さないようにしなければなりません。執行猶予の期間を犯罪を犯さずまじめに暮らしてはじめて刑務所に行かなくて済んだと言えるのです。執行猶予期間中にもし犯罪を犯し、実刑判決が出れば(出ればと仮定で書きましたが、罰金ですまないようならほとんどのケースで実刑判決が出ます。再度の執行猶予というのも制度にはありますが、これは要件自体厳しいですし、同じような犯罪であればたいていは実刑判決です。)執行猶予は取り消され、2つの分をあわせて刑務所でつとめなければいけないことになります。
実刑判決であっても、勾留中であれば、「今日から判決を執行する」ということを言われて取り扱いが変わるというだけです。身柄拘束を受けないで実刑判決を受けて確定すると、検察庁から呼出が来て、刑務所に入ることになります。
ある人がどこの刑務所に入るかというのは裁判所の仕事ではありません。こちらでも簡単に書きましたが、刑事訴訟における有罪判決というのは、「この人をこれだけの期間刑務所に収容する等、刑罰を実行してもいいですよ」という内容の文書にすぎず、この文書に基づいて検察庁が刑罰を執行する。さらにその際どこの刑務所に収容するというのは刑務所サイド(決定内容によって刑務所・矯正管区・更生保護委員会と分かれますが)で決定されます。また罰金については検察庁自ら徴収しますし、もし払わなければ判決に「一日何円の割合で労役場に留置」と書いてある条件のとおりに労役場である刑務所に収容することになります。
(最終改訂2012.3.22.)
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