まあ、「私はケーススタディの方がいいんだい!」って人のために……。
0 総論
初級講座でやったでしょ?相手に何か請求するためには根拠が必要だって。その根拠の検討が訴訟物の議論ではたいていまんま使えます。
まず契約でできる場合があったでしょ。この場合の訴訟物は契約を特定した上で「誰の誰に対する(契約の特定要素を並べて、その)契約に基づく……できる権利」と特定するのです。そして請求原因事実はその契約の存在と契約中の要件が満たされたことなのです。もっともある事実を主張することが自分の不利、相手の有利になる場合には、不利な事実を自ら否定する必要はなく、相手が主張すればいいというのが原則なのですが、その事実によっては、自ら否定しないと契約自体不成立になってしまう場合もあるので、その場合には自分で不利な事実のないことを主張しなければならなくなります。
もう1つの例は法律によって認められる場合ですが、これはその条項をあげ、訴訟物も「誰の誰に対するその条項による……できる権利」ということになります。そして請求原因事実もその条項の要件を示せば足ります。ここでも不利な事実を主張する必要はなく、相手に主張させれば足りる点、さらには場合により不利なことを言わなければならない点があることも一緒です。
では、典型的な訴訟において見ていくことにしましょう。
なお請求の趣旨は通常「……との判決を求める」と書くものですが、本質ではないので省略しています。
1 貸金(返還)請求事件
(1)基本型
お金を借りて後で返すというのは、借りたお金を使ってしまい、後でなんとか調達して返す訳ですから、借りた物を返すのではなく借りた物と同額の物を返すことから、民法587条で言う消費貸借だと解されています。
訴訟物としては「貸主の借主に対する、何年何月何日付け契約に基づく金何万円の返還請求権」ということになるでしょう。契約は同日に複数成立し得ますから、万が一複数ある時には何らかの方法で特定される必要が出てきます。多くは金額によりますが、金額が一緒だと、手をかえ品をかえ特定しなければなりません。当然のことながら年月日が違うもの、金額が違うものなどは別の契約になりますし、もとの契約が別であれば訴訟物も別になります。
そして消費貸借の成立要件は「契約をしたこと」だけではなく「契約に基づき物を貸したこと」まで必要ということが条文からわかりますので、請求原因事実としては契約の内容をもって契約を特定するとともに実際に貸すべきお金を借主に渡したことが必要となります。
そして「貸した日に直ちに返す」なんてえのはたいてい非常識でナンセンス。貸し借りというのはたいてい期間をおいて返すために行われるのですから、「いつ返す」ってえのは、契約の内容として必須のものでしょう。
そこで基本型としては……