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法律学のお作法 その2

 法律学の議論をする時に知っていなければならないことをまたいくつか。
 法律学の勉強をきちんとこなせば、自然に身につくことではあるんだけどね。

 まず相手に何か請求できるためには、法律なり権利なりの裏付けがなければならないことは、初級講座で学んだはずです。
 これを受けて、民法の問題で「どんな請求ができるか」「どんな法律関係となるか」という問題が出されたら、その根拠となる法律や権利を示して、そしてその法律や権利が要求している要件を説明し、それにあてはまることを示さなければなりません。
 これやらないと単なる占いになってしまいますが、法律学は占いではないのです。
 だから答だけあっていたってしょうがないんです。

 犯罪になるかどうかも同様なんですね。犯罪になるためには構成要件該当性があって、違法性阻却事由がなくて、責任が認められる(もしくは責任を否定する要素がない)ってことを示さなければならない。それを示せない議論はやはり法律学の議論とは言えません。

 もっともこれには有名なお約束がついていて、「問題文にそれをにおわせる事情がない限り、一般論としては構成要件該当性の存在をもって犯罪成立ととっていい。」というのがあります。一般論と言うからには抽象的な行為を検討の対象にしているのでして、具体的にして個別的な事情を考慮しなければならない有責性の議論をするのは無理でしょう。なもんで、責任を論じなければならない特段の事情がない限り責任の点は触れなくてもよい……と。一方違法性は個別的ではあるけど抽象的な事情ではあるので、等しく抽象的な構成要件該当性とともに本来は論じることが可能です。ところが構成要件に該当するってことは違法性の存在が推定されちゃいますので、構成要件該当性を示せば違法性まで示したことになるので、違法性阻却事由の存在を論じなければならない事情が問題文に記載されてなければこれまた論じなくてよいのです。

 これを守るだけで、ずいぶん法律学の文章っぽく見えますし(笑)、逆に、一般論とか一定の仮定を置いて論じている時に、そういう一般化や仮定をすっ飛ばして「裁判の結果が出るまでわからない」などとがんばる議論は、「おや〜」と思っておくのが正解なのです。


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