問題が「今の日本で法定刑の一番軽い罪はなんですか?」ということになりましたから,具体的に探していくことにしましょう。
まず最初に「一番軽い法定刑は何か?」という問題を片付けます。
刑法10条1項は9条に書かれている刑の種類の順番に重いとしています。もっともただし書で,無期禁錮と有期懲役では(順番としては懲役が先に来ているから重いはずだけど,例外として)無期禁錮が重く,有期の禁錮の長い方が有期の懲役の長さの2倍を超える時も(順番としては懲役が先に来ているから重いはずだけど,例外として)有期の禁錮が重いとしています。
この観点からすれば,10条の順番で一番最後にくる「科料」が一番軽いので,法定刑として科料しか定めてない罪が,一番軽い罪の候補にあがってきます。ちなみに科料とは17条によって1000円以上10000円未満のお金を支払わせる刑です。
また同じ刑の種類の場合には,「長い方,多い方」で比べて長い方,多い方が重い刑とされます。これで区別がつかなければ,短い方少ない方で決めます。
このように考えて,科料の金額を一番少なく定めている罪が答になります。
そうするとあとは法律の条文を1つ1つ丁寧にあたってとか,どっかから条文をダウンロードして検索してで答が出そうな気がしますが,ちょっと待ってください。罰金・科料という金銭を負担させる刑罰の場合,「罰金等臨時措置法」をおさえておかないといけないのです。この法律,元々は,第2次世界大戦後のインフレ(=貨幣価値の低下)時に,全ての条文をいちいち改正するのは面倒だというので,1つの法律で一律に換算して引き上げるということにしました。刑法もしばらくはそうしていたのです。
で,罰金等臨時措置法2条3項では,刑法,暴力行為等処罰に関する法律,経済関係罰則の整備に関する法律以外の法律で科料を金額で定めていたとしても,金額の定めがないものとするとしています。金額の定めをなくしてしまえば何をしてもいいかというとそうではなく,刑法17条に戻って,1000円以上10000円未満となります。最初から金額の定めがなくとも同じく1000円以上10000円未満です。そして先の刑法他2法には科料のみを定めた規定がありません。
ということは,科料のみを定めた場合,金額の多少にかかわらず,結果的には一律「1000円以上10000円未満の科料に処する」規定だということですから,等しくこれが「今の日本で法定刑の一番軽い罪」ということになります。