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約束が守られない……
契約通りに決済が進めば問題ないのですが……。そうはいかない場合がある訳です。
すぐには解除できません
まず期日に遅れただけだっていうのであれば、遅れてもいいから約束をちゃんと守りなさいと催促することが必要だとされています。前提として期日が守られないだけで契約が無効になる訳ではないということ、期日がすぎれば自動的に債権や債務が消滅する訳ではないということをおさえておきましょう。期日がすぎても債権や債務が残っているのですから、まずはそれを実行しなさいということになるんですね。
催促してもだめだ!ってことになってようやく「解除」が認められます。解除というのは契約をなかったことにすることで契約から発生する債権や債務を消滅させてしまうことです。注意しなければならないのは解除は自動的に行われるものではないので、「解除したよ」と言ってやらないとだめだという点です。実際には「これこれになれば自動的に解除したことにする」ということをあらかじめ言うことで、別途「解除したよ」というのを省略することも行われますが、もともとが自動ではないのですから「これこれになれば」の部分によっては解除したことにならない場合というのもでてくるのです。
まとめると「期日に遅れただけでは債権も債務も消滅しない。期日に遅れた後でも催促する必要あり。催促の後なお守られなければようやく解除できるが、解除の手続が別途必要。」ということになります。
ぺんぎん屋では問題にならないのですが、分割払い・ローンや建物の賃貸借では「別途解除の手続を不要として当然に解除される」とする定めや「期日に遅れれば当然に解除される」定めを事前に決めている例が多いので注意が必要ですし、それがあまりにも過酷なものだと無効にされる場合もあることは覚えておきましょう。
解除されますと、債権や債務は消滅します。そして既に債務として履行した分についても元の状態に戻すことになります。これを原状回復義務と呼んでいます。さらに契約が守られなかったことを理由に損害賠償を請求することができます。もっとも期日どおりの履行がなかった時点で損害賠償請求は認められますし、損害賠償請求の可否は解除の有無とは関係ありません。
実行はもはや不可能な場合
さて、これは遅れたとはいえ、これからやろうと思えばできる場合でした。ところが「義務の実行の前までに起きる問題」で述べたとおり、「もはや不可能」という場合もある訳です。その場合にはもうできないわけですから催促は不要でいきなり解除ができます。ただし解除の手続自体は必要です。
自分の債務はどうなるの?
期日がすぎたからと言って契約が自動的に消滅するものでない以上、相手の状況のいかんにかかわらず自分の分を実行しなければならないとも言えるのですが、さすがにそれでは公平ではないので、「同時履行の抗弁権」というのが認められます。相手がきちんとやらない限りこちらもしないというのが認められる訳ですね。債務を期日どおりに履行しないと、その時点から損害賠償義務が発生するのは上で述べたとおりですし、相当の期間をすぎると解除も可能になるのですが、同時履行の抗弁権が認められる期間内は、履行しないことが許される訳ですから、損害賠償義務も発生しませんし、解除もできないということになります。
商法の特則
商人どうしで売買する時で、「この日までに履行しないと意味がない」類の売買において期日に履行がなされないと、あらためて履行の請求をしない限り、当然に解除したものとみなされます。解除の前提としての履行の催告が不要ですし、解除の意思表示も不要という、これまた短期決戦を目指した条項です。
- ルフィミア
- 解除の手続って具体的にはどうするんですか?
- まさと
- 催促も解除も「意思表示」だとされていますから、契約の申込や承諾などと同じく考えればよいことになります。「期限が過ぎたので早く履行してください」とか「期限がすぎたので催促しましたけど、いまだにやってもらえませんので、契約を解除します」みたいなことを口頭で言うなり書面に書いて相手に届ければいいのですが、実際には後で裁判になっても困らないように内容証明&配達証明郵便で出すことになると思います。
なお、これは別々ではなくていっぺんにやってもかまわないことになっています。例えば「期限がすぎたので(20日先の)9月21日までにやってください。9月22日になってもなされてなければ当然に契約は解除されます。」でもいいのです。これは催促と解除の間には相当な日数が必要だと解されているが、別の通知でやらなければならないというルールは存在しないことによります。
ですんで、(20日というのは建物賃貸借契約における相当期間の例なんですが)あまりにも短い日数でやろうとすると裁判で効力をひっくり返される場合があるので相当の日数をきちんと置くことが重要です。
- ルフィミア
- 履行遅滞とか不完全履行とか履行不能とか言いますよね。これってなんですか?
- まさと
- 債務が期日にきちんとなされなかったという状態を、その理由に応じて分類したというものです。教科書では今もこの表現が使われるから、知っておくと教科書を読む時には便利です。
履行不能というのは、やろうと思ってももはやできないことによって期日にやらなかったもの、履行遅滞というのは、やろうと思えばできたんだけれども、(だからこそ期日後でもできるんだけど)期日にやらなかったというもの、不完全履行は期日にやるだけやったんだけど足りてない、完全ではないってことです。
ところで上の説明にこの3つを使わなかったのは理由がありまして……。
特定の物を引き渡す場合にはその物を渡せばいいんですから、期日通りに完全に履行されたか、履行されなかったかしかないし、履行されなかったのもこれから可能か(履行遅滞)不可能か(履行不能)しかないんですね。特定ではないけど物を引き渡すってことなら、やはり期日どおりの完全な履行か、履行されなかったかしかない。例えば数が足りないとかキズ物だったとかいうなら、きちんとした数やきちんとしたものを履行してはじめて履行があった、やるだけやったんだと言えるんで、完全な履行か履行遅滞か履行不能かしかないんです。で、完全な履行だと問題はないし、履行遅滞と履行不能は上で述べたとおりですね。そうするとことさら3類型を述べなければならない必要はなかったのでした。
ちなみにぺんぎん屋は物の売り買いが主ですから不完全履行を考えにくいのですが、「何かをする」ことが目的の場合には「やるだけやったけど完全ではない」という形態があり得ます。便利屋さんで何かの修理を請け負った場合、全然直ってなければこれは履行遅滞でしょうが、直し方が中途半端で直ったうちに入るかどうか微妙、だけど直してないとも言い難いのは不完全履行と考えることになります。
でもそう分けたところで結局どうなるかと言えば「損害賠償ができるかどうか」「解除ができるかどうか」しか普通は問題にならないし「期日に完全な履行がなされなかった」という点だけ考えるとたいていは答えが出そうじゃないですか?
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