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物がない!part2

 物がない!part1では、契約成立時に目的の物が既に存在していなかったり、目的の物に問題がある場合を取り扱いました。そしておよそ契約を実行することができないような場合には、契約自体が無効になるとしました。
 では、契約成立時にはそういう事情がなかったんだけど、実行前にそういう状況になってしまった場合どうなるか、考えてみます。
 まず、物がない!part1で説明したのは「遠隔地にある別荘」でした。これは「どこどこにある別荘」と言えばたいてい1つしかありませんし、もしその別荘が火事にでもなって全焼してしまうともうなくなってしまったと言わざるを得ない、建て替えたところでそれはまた別の別荘として扱うしかない、そういう例でした。こういう例でもなければ「契約当時に当事者双方が物の不存在に気づいていない」なんてことはまず考えにくいでしょう。
 ところが契約後の事情で物がなくなってしまったということは、ぺんぎん屋でも充分考えられることです。1点物のぺんぎんのぬいぐるみが発送前に泥棒に入られて盗まれてしまったというのは全くあり得ない話ではありません。盗られてしまいますとその1点物のぺんぎんのぬいぐるみについてはもう渡すことが不可能になります。
 この場合の処理ですが、不可能になった理由によって区別します。泥棒が入った場合のように当事者のどちらの責任でもない場合には、「ぺんぎんのぬいぐるみを渡すのは不可能なので債務消滅」債務というのは法律上しなければならない義務のことで、この場合には「ぺんぎんのぬいぐるみを引き渡す債務」が消滅します。そしてこの債務と対価の関係にある「代金を支払う債務」については民法534条1項の「債務者の責任でない場合は債権者持ち」と定めてあることで消滅しないとされていますから、ぺんぎん屋のお客さんはあわれなことに「物はなくなったのにお金は払わなきゃいけない」という悲しい状態になる訳です。消滅した債務は「ぺんぎんのぬいぐるみを引き渡す債務」でしてこれの債権者はぬいぐるみをもらうはずだったお客さん、債権者であるお客さんが「物はなくなったのにお金は払わなきゃいけない」リスクを引き受けている訳で、このような考え方を「(危険負担における)債権者主義」と呼んでいます。
 これはなかなか世間の常識と違うような気がしますがどうでしょう?
 債権者主義をとるのか債務者主義をとるのかは実のところどっちでもいい話でして、何かの原則から自動的に決まるというものではないのです。そして民法の大原則は債務者主義をとっていて、その最大の例外として「これ!と決めて売買するような場合は債権者主義」って構造なのですから、例外なしにしても別に問題はなかったのです。一応「所有権は当事者の意思だけで移転できる。契約したら契約時点で所有権は移転したと見るのが相当だろう。少なくとも契約した時点でその物がなくなっても困らないように、例えば見張りを立てるとか保険をかけるとかするのは債権者である客の責任だろう。」って説明はなされているんですが、なぜそうなのか?なぜぺんぎん屋ではないのか?という疑問は相変わらず残りますよね。
 で、実際の取引でも契約中ではっきりと「引渡までは店の責任」というような特約を設けたり、もしくはそのような慣行が別途できあがったりする方が多いでしょう。ですから「特に定めがなければその物の保管責任はお客側になるから、そうならないようにきちんと打ち合わせておこう」と覚えておくおくのがいいと思います。
 さて、泥棒ではなくて……店の責任である場合はどうか?これでも厳格に言えば「ぺんぎんのぬいぐるみを引き渡す債務」自体は不可能になった訳で「引き渡す債務」自体は消滅すると考えられています。しかしその消滅が店の責任である場合には「ぺんぎんのぬいぐるみを引き渡す債務」が「ぺんぎんのぬいぐるみを引き渡すのと同価値の金銭を引き渡す債務、損害賠償債務」に変化すると考えられています。そうしますと広い意味では債務は消滅していないことになりますから「ぬいぐるみ分の損害賠償債務」と「代金支払債務」とが存続し続けるという結論になります。たぶんこれは同じ金額なので相殺して終わりってことになるでしょう。ですんで店の責任で物がなくなった場合には代金を支払わなくてもいいという以上の何かを店に求めることはできないだろうとなります。
 一方客の側に責任がある場合、たとえば客が泥棒だったという場合、(なんでそんなことをするのか謎ですが……。)これも「ぺんぎんのぬいぐるみを引き渡す債務」は不可能になって消滅します。一方で代金支払義務は534条1項によって消滅しませんから「物がないけど代金を支払わなければならない」ということになるものの……。これはまあ当たり前の話。
 民法ではこの問題を「危険負担」として議論しています。
 ちなみに、「ぺんぎんのぬいぐるみを引き渡す債務」の実行が不可能になってしまった場合、契約を解除することもできます。そしてこれは期日を待つ必要がないのですが、詳しい説明は義務実行時の問題のところですることにします。

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