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祝日

日本の祝日の根拠は「国民の祝日に関する法律」によります。

国民の祝日に関する法律
(昭和二十三年七月二十日法律第百七十八号)
最終改正年月日:平成一七年五月二〇日法律第四三号

第一条
 自由と平和を求めてやまない日本国民は、美しい風習を育てつつ、よりよき社会、より豊かな生活を築きあげるために、ここに国民こぞつて祝い、感謝し、又は記念する日を定め、これを「国民の祝日」と名づける。

第二条
 「国民の祝日」を次のように定める。
元日 一月一日 年のはじめを祝う。
成人の日 一月の第二月曜日 おとなになつたことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます。
建国記念の日 政令で定める日 建国をしのび、国を愛する心を養う。
春分の日 春分日 自然をたたえ、生物をいつくしむ。
昭和の日 四月二十九日 激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす。
憲法記念日 五月三日 日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する。
みどりの日 五月四日 自然に親しむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心をはぐくむ。
こどもの日 五月五日 こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する。
海の日 七月の第三月曜日 海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う。
敬老の日 九月の第三月曜日 多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う。
秋分の日 秋分日 祖先をうやまい、なくなつた人々をしのぶ。
体育の日 十月の第二月曜日 スポーツにしたしみ、健康な心身をつちかう。
文化の日 十一月三日 自由と平和を愛し、文化をすすめる。
勤労感謝の日 十一月二十三日 勤労をたつとび、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう。
天皇誕生日 十二月二十三日 天皇の誕生日を祝う。

第三条
1 「国民の祝日」は、休日とする。
2 「国民の祝日」が日曜日に当たるときは、その日後においてその日に最も近い「国民の祝日」でない日を休日とする。
3 その前日及び翌日が「国民の祝日」である日(「国民の祝日」でない日に限る。)は、休日とする。
(附則については省略)

この法律は,最近の法律の典型的な構造をコンパクトに示しています。「最近の法律の典型的な構造」というのは,「第1条にその法律の目的を明言する。第2条においてその法律内における言葉を定義する。要件や効果については第3条以下。」というものです。
国民の祝日に関する法律においては,なぜ国民の祝日を(日曜日の他に)設けるのか,その理由と目的を第1条で述べ,第2条で国民の祝日を具体的に定義し,第3条で国民の祝日の効果(1項のとおり「休日」となる。)を述べるとともに,国民の祝日と日曜日が重なった場合の処理を第2項で,国民の祝日が一日おきにおかれる場合の処理を第3項で定めています。
ところで,条文を細かく検討していくとおもしろいことがわかります。「国民の祝日」と「休日」とは全く違う概念で,しかも,国民の祝日に関する法律は「国民の祝日」について定める法律だから,国民の祝日が休日であることや,国民の祝日に関連して休日になる日を定めているけど,「休日になるとどうなるか」については定めていないのです。

さて。国民の祝日は,その決め方に着目すると3種類に分かれます。
第1のグループは,日付によって年に関係なく定まっているものです。
「元日 1月1日」
「昭和の日 4月29日」
「憲法記念日 5月3日」
「みどりの日 5月4日」
「こどもの日 5月5日」
「文化の日 11月3日」
「勤労感謝の日 11月23日」
「天皇誕生日 12月23日」
それに,ちょっと毛色が違いますが,「政令で定める日」とされている「建国記念の日」もこのグループです。政令というのは法律を実施する際に必要な事項を法律の範囲内で内閣が定める法規範(ルール)です。仮にこの法律が施行された後にも政令が定められなければ,建国記念の日が具体的に指定されていない以上,特定の日が建国記念の日として休日になることはありません。実際には,「建国記念の日となる日を定める政令(昭和41年12月9日政令第376号)」で2月11日と定められていますが,他の日が法律を改正しない限り変えられないのに対し,建国記念の日だけは,内閣によって変えることができます。
第2のグループは,日付ではなく曜日によって指定されているため,日付は年によって変わるものです。
「成人の日 1月の第2月曜日」
「海の日 7月の第3月曜日」
「敬老の日 9月の第3月曜日」
「体育の日 10月の第2月曜日」
第3のグループは,
「春分の日 春分日」
「秋分の日 秋分日」
なのですが,これだけでは「の」が抜けただけではないかと思いかねません。(実際私も最初はそう思っていました。白状すれば。)
春分日・秋分日は天文学上の概念です。イメージとしては天動説ね。プラネタリウムに行ったことがある人はプラネタリウムを想定してもらえると助かります。投影機械のあるところに地球があると思ってください。地動説的に言うと,地球が太陽の周りを回っているのですが,これを天動説的にプラネタリウムのスクリーンにあてはめると,太陽が星の間を動いているように見えます。自転によっておよそ24時間に1周する他,同じ時刻で比べた時に1年で1周するように見えます。この太陽の動きをプラネタリウムのスクリーンに書き込んだ時,そのルートを「黄道」と呼びます。ところで一方で地球の赤道を地球の中心から見てスクリーンに延長すればやはりスクリーンに線が引けて,これを天の赤道と言いますが,これは黄道とは一致しません。というのは,地球儀ってたいていは北極と南極を結ぶ線が傾いているように台につけてありますよね。地動説的に言った時に太陽の周りを地球が回る際,やはりあの傾きのように傾きながら回っているんです。これが季節によって太陽の高さ(角度)が異なる原因なのですが,同じ理由で天の赤道と黄道が一致しないこととなります。一方,ずれる原因が傾きなのですから,ちょうど赤道の1点とその反対側の1点で輪をずらしたようになるわけでして,そうすると年2回だけ天の赤道と黄道が一致します。春に一致する点が「春分点」秋に一致する点が「秋分点」なのです。 この定義からわかるとおり「春分点」「秋分点」というのはある特定の時点です。春分点を含む日が「春分日」,秋分点を含む日が「秋分日」です。
春分点や秋分点が天文学上の概念であり,かつ,計算が可能なものです。だからといって国民全員が各自計算してというのも変な話です。通常は何らかの形で国もしくは関連機関が定めるものでしょう。
ところで,国立大学法人法附則3条1項により成立する大学共同利用機関法人自然科学研究機構には,国立大学法人法施行令附則2条2項によって国立天文台が含まれることになったのですが,その業務内容には「暦の計算」は必ずしも明記されていません。もっとも,おそらく施行令29条1項6号として,旧法である国立学校設置法施行令第6条で国立天文台の目的の1つであった「暦書編製」も含まれると解されるところ,この暦書編製の中に,毎年2月1日付けで翌年分が作成される「暦要項」が含まれます。
というので,この春分日や秋分日は,暦要項が基準となるのです。
暦要項は2月1日(官報は土日祝日が休みなので,もし2月1日がそういう日だと,その直後の最初の官報発行日)の官報に掲載されます。(余談ですが,官報に載ったことは国民全員に知らされたとみなされる建前です。「みなす」というのは「現実は違うかもしれないが,いや,現実はきっと違うのだろうが,そうだということで扱うことにして,一切の反論は許さないことにする」ものです。)逆に言うと,暦要項が官報に掲載される前には基準となるものが何ら公表されていないのですから,たとえ国立天文台が計算していたとしてもこれは国民の祝日に関する法律との関係では何の効力も発生していないのです。実際最新の観測結果等による再計算によって結果が変わる可能性は否定できないですし。ただこれはこのあたりの事情を知らない人には「え〜?なんで〜?」という話のようで,長沢工の「天文台の電話番」地人書館でも触れられています。それでも将来の予想を立てたければ,暦計算研究会「新こよみ便利帳―天文現象・暦計算のすべて」恒星社厚生閣を買って自分で計算するのが吉です。(私も持っていますが,いくつかの計算式があって,精度は落ちるけどすごく簡単に計算できるのもあります。国立天文台に電話したって正確な答は言えない話なのですし。)
(初稿2009.9.22.)
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