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29条違反説の検討

 まず、29条1項と2項を見てみましょう。(さすがに3項は無関係だ。)

1項
 財産権は、これを侵してはならない。
2項
 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

 法律の解釈が全くできない人が素直に読めば、「2項で財産権の内容は法律で定めると書いてあるんだから、1項で保護される財産権は法律によってその内容を定められた財産権である以上、公共の福祉に適合するように定めた法律が29条違反になることはあり得ないんじゃないか。」ということになります。これはかつての通説と言ってよいでしょう。宮沢・芦部「全訂日本国憲法」(いわゆる宮沢コンメンタール)が29条2項について公共の福祉に反している例を全くあげてないのは、この立場だと言っていいと思います。

 さて、最近はこんな単純な議論で終わらせてはいません。ですからここから先はさすがに勉強が必要です。

 公共の福祉については、人権を制約することを容認するという批判があり、「公共の福祉が認められるからだめ」という単純な議論は通用しなくなってきました。かつて、「公共の福祉に適合するように」と書いたものの、法律はたいてい公共の福祉に適合するように作られるため、29条違反はあり得ないという理解で足りていましたが、今はその理解ではさすがに足りません。さりとて憲法プロパーの話としては結構こみいった話になっているものの、「財産権についての規制は積極的政策目的のものであってもよい」という点についてはほぼ異説がなく、その判断も裁判所はおおむね「目的の不合理性か手段の不合理性があれば違憲もあり得るけれども……」と言ったり明言はしなかったりするものの、実際に法令自体を違憲にしたのはたったの1例なんです。その他には法令違憲ではなく適用違憲にしたのが1例。もしかしたら違憲かもというのが他に1例。残りは全部合憲です。
 たぶん唯一の法令違憲は有名な森林法共有物分割禁止規定違憲判決(昭和62年4月22日最高裁判決)で、原則禁止と言いながら但書で過半数であれば禁止しないとした条項につき、法令の条項自体が違憲とされました。これは目的は不合理ではないが、2分の1以下の共有持分者からの分割請求のみを禁じていることを不合理としたもので、確かに分割の話がまとまらないと保存行為はできるけど、管理行為や処分行為ができないという状態になることがはたして森林の保全に役立つだろうかというので至極まともな判断です。適用違憲の1例も、「モーテルの建築を知っておきながら、後で条例作って規制したため、それまでの出費が無駄になった」ものなので、理解可能ですね。
 そして、本人の意に反する徴収を財産権の侵害として構成したものとして「消費税」「国民年金保険料」「国民健康保険料」あと現金じゃないけど「農地法による農地買収」がありますが、みんなそろって「違憲ではない」です。

 こういうことをきちんと調べていれば、「NHK受信料は違憲であると裁判所が判断するだろう」なんて到底思えません。もしこれで違憲と思うなら、それはもはや現実に目をつぶっているか、センスが悪すぎます。おそらくはきちんと調べてはいないのでしょう。きちんと調べていなければ、「勉強の仕方が間違っている」というものなのです。

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