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9 刑の種類
これまた教科書や大学の授業ではあまりやらないのですが、実務ではおさえておかないとならないのが、この分野です。もっともこっちは単純に刑法各論の議論の時に混乱しないように……って話な訳ですが……。
まず主刑と付加刑の区別があります。主刑は単独で科すことのできる刑で付加刑は主刑と一緒でなければ科せられない、単独では科すことのできない刑です。付加刑というのは刑法9条により「没収」しかあり得ません。没収の規定は19条で、犯罪に関係したもの、犯罪によって得られた利益を犯人からとりあげて、犯罪に関する物や犯罪によって得た利益を犯人のものにさせないという意味があります。したがってその物がもはや犯人のもとにない場合でも同価値のお金を払うよう命ずることができます。(追徴……19条の2)
主刑は「死刑」「懲役」「禁錮」「罰金」「拘留」「科料」です。
まず「死刑」は言うまでもなく、犯人の生命を奪う刑罰です。日本では絞首によって行うことになっていますが、その手順は明治時代の規定がいまだに使われています。
身体を拘束するのが「懲役」「禁錮」「拘留」です。そのうち作業を強制されないのが「禁錮」「拘留」で作業を強制させるのが「懲役」です。「拘留」は1日以上30日未満(16条)で、「懲役」や「禁錮」は原則として1か月以上20年以下(12条、13条)となっています。もっとも例外的に重くする場合には30年まで重くできます(14条)が、それ以上に重くすることはできません。軽くする場合には1か月以上というのを7日以上という線まで軽くできます(14条)が実際にはそういう場合には執行猶予をつけて、刑期自体は軽くしないことの方が多いでしょうからあまり意味はありません。まあそのあまり意味がないことを実際にやることは法律上は可能ですからその場合には拘留と懲役や禁錮が期間の点で重なることがあり得る訳です。
刑法各論では刑期が「X年以下」だとか「Y年以上」と定めている場合があるのですが、「X年以下」とある場合の短期、「Y年以上」とある場合の長期はこれらの条文も参照しなければならないんだよってことが意外と知られてないようだからです。たとえば罰則の規定に「10年以下の懲役」と書かれていればそれは「1月以上10年以下の懲役(減軽があると最短で7日以上10年以下)」という意味だし、「2年以上の懲役」と書かれていればそれは「2年以上20年以下の懲役(加重があっても2年以上30年以下の懲役)」という意味になります。
懲役と禁錮という期間が同じな2種類の刑があるのは歴史的理由によります。すなわち強制労働をさせるか否かという点にありまして、比較的悪質な犯罪については懲役刑として強制労働させ、過失犯を中心に比較的悪質ではない犯罪については、社会から隔離して自由を束縛するけど、強制労働まではさせないという使い分けをしていたのです。しかし現在では刑を言い渡す時にそういう使い分けはしていますが、刑の執行段階では禁錮刑の受刑者に対しても任意で労働を申し出させ(一旦申し出ると労働しないという訳にはいかない)結局懲役刑との区別がつかない状態になっています。
金銭を強制的に支払わせるのが「罰金」と「科料」です。似た言葉に「過料」「反則金」というのがありますが、これらは刑罰ではありません。反則金というのはたとえば交通違反をした時にいわゆる青切符で支払うもので、期間内に手続をするとそれ以上の刑事手続には進まないとされています。過料は裁判所でも制裁として科すことがありますが、主に行政機関が科すことが多いでしょう。罰金は1万円以上ですが、軽減があると2500円まで下げることができます。科料は1000円以上1万円未満ですからこれまた科料と罰金が重なる場合が出てきます。
罰金刑や科料刑を言い渡す時には、「もし払えない時は1日5000円(例)の割合で労役場に留置する」というのを一緒に言い渡さなければならないことになっております。払えないと労役場に留置されるんですね。でも実際には別の刑で懲役や禁錮の執行を受けている者が罰金も払わなければならない時に、出所時期を延長して労役場留置としている例が多いようです。ですんで法律上は労役場と呼んでいますが、いわゆる刑務所と同じな訳です。
さてこれらの刑を比較してどちらか決めなければならない自体が刑法各論では出てきます。その場合の比較の方法ですが、まず主刑の間では「死刑」「懲役」「禁錮」「罰金」「拘留」「科料」の順に重いのが原則です。これの例外は2つあり、1つは有期懲役と無期禁錮では無期禁錮の方が重くなります。もう1つは有期懲役と有期禁錮を比較する場合で、有期禁錮の長期の方が有期懲役の長期の2倍以上長い場合でこれも有期禁錮の方が長くなります。ですから「2年以下の懲役」と「5年以下の禁錮」とでは「5年以下の禁錮」の方が重くなるわけですね。
さらに罪数論のところでちょっとやりましたが、2つ以上の犯罪を行うと場合によっては重くなるのですが、日本の場合、刑期を単純にたして重くするということをしていません。一番重い刑に5割増などのルールで重くし、しかも上での述べた制限もかかりますと、無期懲役や無期禁錮でなければ最長で30年なのです。アメリカのどこかの州では単純にたす方式を採用しているので「450年」なんて判決が出ることがあるようですが、日本ではこれはあり得ないのです。
(2005.1.1改訂)
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