まずは極端な例を考えてみる。
日本の参議院の比例代表区の制度の下で
定数48,有効投票数4790万票,
立候補の届け出をした政党はX党とY党だけで,
両党とも48名の立候補の届け出をしたとしよう。
X党の立候補者の中の1人であるA氏にだけ
90万人がAの氏名を書いてくれるという支持者がおり
残り4700万票は政党すらも自由に選択する「投票する浮動票」だとしよう。
「X党のA氏を当選させないためには
Y党(もしくはY党の候補者)に投票するより
X党のA氏以外の候補者に投票した方がいい」
と言えるか?
……これが言えないんだよね。
もし浮動票全部である4700万票がY党もしくはY党の候補者に行くと
X党のAが90万票とったところで
X党の中では1位かもしれないけど
X党には1議席もいかない(この場合Y党が48議席を独占する)んで
Aは落選さ。
ところがデマを信じて4700万票のうち10万票が
X党のたとえばBという候補者にいったとしよう。
そうするとY党47議席に対しX党に1議席が割り当てられる。
X党では1位のAが90万票,2位のBが10万票で
Aは見事当選という次第。
「X党のA氏を当選させないためには
Y党(もしくはY党の候補者)に投票するより
X党のA氏以外の候補者に投票した方がいい」
というのが全くのデタラメなのが一目瞭然だよね。
こんな指摘をすると
「それは現実的ではない」
と言い出す人がいるかもしれない。
そんな人に対してはこう問いただそう。
……あなたの現実って何?
もしその現実とやらを
私が上でやったように
きちんと条件化して明示できない人であれば
「お疲れ様でした~。」と議論を切り上げて
他の人に対し,「きちんとした数字をあげた上での議論ではないよ」と否定してあげれば十分。
で,もし明示できる人であれば
(まあ計算とかが間違っていれば指摘した方がいいけど)
その条件の下で成立する話であることは否定しなくていいから
「その条件以外の時まで一般化できる話ではないでしょう。」
と指摘すれば十分。
実際,わずか1票動くだけで,結果が変わってしまう例自体はあり得るし
あたし面倒くさいからやらないけど,例を作ろうと思えば作れる。
……実際10万票動くだけで変わった例は作れたよね。
ポイントはそういう例の存在から無批判に一般化することは否定したいわけだし
しかもたいていは一般化すると
「他の党(もしくはその候補者)に入れた方が結果は同じかたいていいい」
話なので,一般化した結論が真逆の方向に行くのはいかがなものかという話なのさ。
詳細を説明するんでもう少しつきあってたもれ。
まず,現行制度をおさらいしておこう。
投票する側は「個人名」か「政党名」かどちらかを書く。
そして集計する側だけど……。
まず政党に投票された数とその政党の個人名に投票された数を合計する。
その数を表の最上段に一列に並べ
まず1で割った答を次の段に並べ
次に2で割った答をその次の段に並べ……
で表を完成するわけさ。
(まあ定数が48なんで48で割るところまでやっておけば間違いがない。
実際にはもっと少なくて十分なんだけど。)
そして表の中の答の数字の大きい順に○をつけていき
その○が全体の48個になった時点で打ちきって
政党別の○の数がその政党に配分される議席の数になる。
その政党の中の具体的に誰を当選させるかについては
個人名の得票の多い順に決めていくという次第。
そうすると……
政党名を書こうとその政党に属する候補者の個人名を書こうと
議席数の配分の際には「両方合計して」ということになるのね。
当然他の政党や他の政党の候補者の個人名を書くと
その政党の議席数の増加につながることになる。
もうこの時点で
「X党と書こうと,Bと書こうと,X党の当選者を増やす方向に向かうので
それだけAを当選させやすくする方向に向かうが
Y党やその候補者を書くとY党の議席を増やす方向に向かう反射的効果として
Aを当選させにくい方向に向かう。」
ことが一般論で言えちゃうんです。
……まあここでQED宣言しちゃってもいいんだけどね。
数字で具体的に示さないとイメージつかめない方へのおまけ。
2010年選挙の時って,実は……
「おおむね100万票で1議席」だったんですよ。
この数字はもともと厳格なものではないし
厳格に計算したところで
今の日本の参議院比例区が採用している修正していないドント式だと
1議席か0かというラインは少し高めに
1議席とった政党の2議席目以降については少し低めになって
きちんとした単一の数字にはまとまらないんだけど
話をイメージしやすくするために「おおむね100万票で1議席」で以下話を進めます。
この100万票は個人が集めなきゃならないってもんじゃないのね。
政党に入れた票から100万票になるまでもらっちゃってもいいのよ。
ただしもらう順番は個人名の得票の多い順。
例えばBが95万票,Aが90万票,X党に115万票だとすると
X党の115万票はB→Aの順にもらえる
最初のBはX党名の票のうち5万票を受け取って計100万票で当選。
次順位のAがX党残り110万票のうち10万票を受け取って計100万票で当選。
こういう考え方でいいんです。
※「それ,移譲式の発想じゃん」と気付いた人は偉い!
そう,比例代表法の中では,割と考え方としてわかりやすいけど
実際の決定法は意外に難しくて,あまり採用されない移譲式なんです。
すごく違うように見えるけど同じ比例代表法なので
ねっこの思想は一緒なんです。
もし1位のBが100万票超えて得票していたら
100万票を超えた分も政党名投票と合算して次の順位に行くのさ。
そうすると……
X党の他の候補者に投票することでAの順位を下げたところで
Aの前の順位の人が政党名(及び個人名の当選ラインオーバー分)投票を使いきらない限り
結局Aは当選してしまうのよ。
Y党に入れてしまえばAには絶対まわらないからね。
そうすると一般論としては
「X党のA氏を当選させないためには
Y党(もしくはY党の候補者)に投票するより
X党のA氏以外の候補者に投票した方がいい」
というのは間違いで
その最大の間違いの理由は
「Aの氏名を書かないで他の候補者の名を書いたところで
結局それはAの当選の可能性を高めている。
他の政党もしくは他の政党の候補者名を書けば
Aの当選の可能性を高めるわけがない
……相対的にはむしろ低めている。」
という点にあるんです。
数字をからめて言うと
Aの当選を阻止するためには
A以外の候補者を48人当選させる必要があるわけで
これはA以外の候補者48人に個人名+政党名で100万票を得させればよいことになるんです。
この48人はA以外であれば誰でもいいって点に着目すれば
X党の他の候補者でもY党の候補者でもいいわけでしょ。
そしてX党の候補者に入れると場合によっては
100万票以上獲得してしまって自分の票が他人の当選に使われる可能性があるのに対し
Y党に入れるとその可能性が0なんだから……。
ちなみに……
気付いた人いるかもしれないけど
Aが個人名で100万票取っちゃうようだと
・そもそもの有効投票数が増える
・1議席も取れない政党へのいわゆる死に票が減るように野党を1本化する
などの当選ラインが上がる現象が起きない限り
Aの当選は阻止できないのだよ。
……当選ラインが上がると言っても限度があるし
その限度を超す得票を得ちゃうと
もう誰にも当選は止められないんだわ。
……当選後の事由(選挙違反で当選無効・失職とか,不祥事で辞職とか)によるしかない次第。