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訴状に貼る印紙がない場合

おおもとは某所で訴が第1回口頭弁論期日前に取り下げたって話から。

わざわざ訴訟を起こす=訴状を出しておいて,期日前に取り下げるのって信じられないかもしれないけど
実務の世界では,比較的よく見られる話。
というのは,訴状を受け取った被告が,原告と話をつけてしまい
原告としても訴訟が不要になるというのは,比較的よくある話で
これを受けて訴訟を取り下げれば
「最初から訴訟がなかったものとして扱われる。」
(余談だけど国際司法裁判所は「付託事件リストから削除」だけど
 日本の裁判所は「事件簿」という帳簿には訴訟があったこと自体は残しておく。
 ただどっちも「最初から……」の点は同じ。)
で,そういう事態は想定されていて
民事訴訟法261条1項は「判決が確定するまで」訴えを取り下げることができるとし
262条1項でその効果を「始めから係属していなかったものとみなす」としている。

さて,訴訟は訴状を裁判所に提出することになっているが
細かく言うと裁判所の訴訟にかかる費用は「手数料」「手数料以外の費用」の2本立てで
手数料は収入印紙を買って消印しないで訴状に貼ることで納付することに
民事訴訟費用法8条本文で決まっている。

そのとおりやった人が,事情が変わって取り下げるとした場合
民事訴訟費用法9条3項1号該当で半分返すことになる。
ただし,これは自動的に返るわけではない。
3項は「申立てによる」と明記してある以上,
原告が「訴訟費用還付請求」という手続を申し立てなければならない。
申立をしなければ永遠にもどってこないわけさ。
申立をして要件を満たしていれば,原告指定の預金口座に振り込まれる次第。

さて,某所では
「お金を集めて訴状を出して,だけど取り下げて,半額を戻してもらって……」
を狙っていると推測している話が出ている。
訴えの取下げは「初めから訴訟がなかったものとして扱われる」なので
取り下げてしまうと「裁判をやった」とはもはや言えなくなるはずなんだけど……。
「訴訟をやった(けど取り下げた)。
 訴訟をやったから印紙代のことは集めた人からはそれ以上追及されない。
 そして半額請求して口座に振り込まれてウマウマ」
と思っている人が,世の中には結構いるらしいことがわかった。

そもそも,根拠がなければ邪推の話ではあるんだけど
もともとの話として,それやるくらいなら,最初から印紙貼らなきゃ丸儲けじゃないか……と。
弁護士だったら印紙貼ってないと窓口で指導入るから
かえってあまり気付かないかもしれないけど
印紙貼ってない・付けてない訴状なんて日常茶飯事と呼べる程度にはあるからねい。
そして裁判所では印紙を貼っていないことだけを理由に訴状扱いをしないということは
できないシステムなのだ。
究極的には民事訴訟法137条1項後段で「補正命令」として印紙納付を命じなきゃいけないし
補正命令にもかかわらず印紙を納めなければ
同条2項によって訴状を却下することになる。
(これ,他の訴訟終了原因である=訴えの内容や形式が不適法な場合の「却下」と区別して
 「訴状却下」と呼ばれている。)
だけどこれって裏を返せば,
「印紙貼ってないだけでは,訴状の受取拒否はできない」
ってことなんだよね。

そしてこの仕組みを知っていて,手数料の節約をはかろうとするなら
わざわざ印紙を買って貼り付けて半額は戻ってこないってより
最初から貼らなきゃ丸儲けってところまで読みきっているんじゃないかと思うのよ。
細かく言うと
印紙貼らないで訴状出せば
まずは任意に「印紙出してください」って催促だ。
言うこと聞かないと,今度は補正命令。
それでも貼らないと訴状却下という手順。
当然訴状却下になる前に取り下げても同じ。
ポイントは,印紙を貼らないのは違法だけど
違法な訴状は訴状却下しちゃえばいいし
訴状却下してしまば,もはや印紙を貼る義務も消える=印紙出せとは言えなくなる。
訴状却下前に取り下げても一緒で
もはや印紙を貼る義務も消える=印紙出せとは言えなくなるのだ。

この話,意外に知られていない。
弁護士の発言でもこのストーリーの可能性に一切触れていなくて
「もしかして……知らない?」との疑いを持ったし
まして弁護士じゃない人はたいてい知らないよね……。
というので紹介した次第。


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