どこの国籍になるでしょうか?
事情知らない人だとそう聞きたくなるんだろうけど
法律知っている人は,真っ正面から答えたらだめだよね……と思った次第。
……だって「必ず1つ」に決まるわけじゃない,0の場合もあれば,2以上の場合もあるからね。
最近話題になったカナダ国籍の機内で生まれた子供の国籍の話。
前提としては父母は婚姻していないけど両方ともカナダ国籍ね。
まず答を書いちゃうと
まずはカナダ国籍なのは間違いなさそう。
というのはカナダ市民権法によれば
・カナダ国内で生まれればカナダ国籍
とされるところ
この「カナダ国内」には「カナダ国籍の航空機内」が含まれるので
カナダ国籍の機内で生まれたらストレートにカナダ国籍になるという話。
ここまでは割と簡単なお話。
もっとも……ネット上の情報を見ていたら
なんかいろんな条約持ち出してまわりくどい話して
結局結論が同じという弁護士の記事があったんだけど
……行数かせぎに来たな~って思っちゃった。
というのは……。
国際法の世界では「国籍を付与するか否かは国家が決められる」というルールがあって
基本的には国籍を付与するか否かは国家の判断によるし
たいていはその国家の国内法で決定することになるから
「ある国の国籍が与えられるかどうか」は
もっぱらその国の法を見れば答が出るし,そこに条約の出てくる余地はないのさ。
(まあ小難しい話をすれば国籍の付与について国内法で決めず,条約等に委ねている国家があれば
例外にはなるんだろうけど……さすがにそんな国あるのかえ?)
少なくともカナダについては国内法がある。
となると,少なくとも試験の答案で条約うんぬんを書き出したら
むしろ減点対象だろうね。「こいつ国籍付与は国内管轄事項だってわかってねえな。」とされて。
内輪話をすれば無国籍者の発生を防止するための条約があるから
そういう条約への加入の有無から国内法をさがす時のあたりをつけることはあるんだけど
間違っても条約自体を国籍付与の根拠にあげちゃいけないわけだ。
ただね。カナダ国籍が付与されるということはわかった。
ところが……だ。
「カナダ国籍が与えられる」で話を終わらせていいかという問題は残るのよ。
国家の空間的管轄権というのは,陸地である領土(および領土扱いされる水面),海である領海
それにそれらの上空である領空に及ぶことになっているんで,
もしカナダ国籍の航空機が他国の領空を飛行中に生まれた場合
その他国の国内で生まれたことになって
その他国の法律によって国籍が与えられる可能性があるわけさ。
それを考えると
「どこの国籍になるか」という質問って
関係しそうな国について全部検討しないと
正確な答が出せないってことになるはずなんですよ。
たとえば
「機内」だけじゃ実は足りなくて,どこを飛んでいた時に……も重要になってくるのさ。
……そういう報道あったかえ?
(行数かせぐんならここでかせごうよ……とは思った。)
さて,変化球。
もしカナダ国籍の飛行機じゃなくて日本国籍の飛行機だったらどうなるか?
この場合も,カナダ国籍が与えられることは割と簡単に答が出ちゃう。
というのはカナダ市民権法は
カナダ国外で生まれたが親がカナダ国籍の場合にはカナダ国籍が与えられるって
きちんと定めてあるのさ。
一方,日本の国籍法は2条で
「子は、次の場合には、日本国民とする。
一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。」
としているから,両親が他国の国籍を持っていることが明らかな場合には,
たとえ日本国籍の飛行機内で日本で生まれた場合とされる場合であっても
1号2号3号いずれにも該当せず,日本国籍は与えないことになっている次第。
そしてこの場合でも
他の国の国籍が与えられるかどうかはその国の法律を調べなきゃならず
カナダ法と日本法を調べて終わりというものではないのは一緒なのさ。
佐々木将人: 2015年5月23日 13時17分: 未分類: comment (0)