法的な会社再建手続の株への影響
Q 会社更生法,民事再生法など法的整理が行われた会社の株券はどうなりますか
A 紙くず同然になります。
イメージとしてはそれほど間違っているわけじゃないんだけど,
なぜ紙くず同然になるかをきちんと説明していくと
実は「紙くず同然」と言いきるのも問題があるなあと思ったのでした。
ここでいう「株」というのは
株式会社に対して出資をしたことによって得られる出資者としての地位のことです。
(だから会社法的には「株式」というのが正解。)
その地位によって何が得られるかは結構多岐にわたるのですが
お金に関することだと
「継続中の会社において,利益が出た場合に,その利益の分配を受ける権利」
「会社を清算する場合において,財産が残った場合に,その財産の分配を受ける権利」
と言っていいと思います。
この時点で
「あれ?市場で売ってお金になるんじゃないの?」
って思う人が結構いると思うんだけど
(というか,そう思うからこそ,この質問になるわけで)
このことは株式の本質とは全く関係ないんです。
歴史的に言うと会社に対する出資を回収したい人と
その会社に対して新たに出資したい人が出てくるのは自然の話で
でも,会社の方としては,「出資を回収したいので返してくれ」と言われても困るわけですし
新たに出資してくれるのは会社自体は歓迎だけど
他の出資者にしてみれば上で書いた2つの分配の権利が減るわけで
簡単に認めるわけにはいかない。
というので何らかの手段が必要になる。
そこで生まれたのが株式の売買であり
さらには株式市場なのです。
だから,会社に出資したい人や出資を回収したい人がいないような場合には
売買とか市場とかは成立しません。
さらには会社がなんらかの理由で売買を禁止することだって日本ではできます。
(というか数だけ数えたら株式の売買を禁止している会社の方が圧倒的多数。
これはこれで問題なのだが……。)
そしてその最初は「会社の利益の分配」を目標にしようとして株式を買うわけです。
ところが,市場が成立するようになり
そこで需要と供給で価格が決まるようになると
もはや会社の利益の分配が主目的ではなくなります。
市場価格が安い時に買って高い時に売ればそれだけで利益が出るわけで
じゃあその価格はと言えば
まさに「この価格が妥当だと思うから売買する」とみんなが考える価格で決まるのです。
でも,これはあくまで会社に対する権利義務とは関係のない話。
会社に対する金銭的な権利としては
「継続中の会社において,利益が出た場合に,その利益の分配を受ける権利」
「会社を清算する場合において,財産が残った場合に,その財産の分配を受ける権利」
の2つと考えてよし。
そこで会社更生とか民事再生の手続が行われたとしましょう。
この手続の本質は
「会社が負った借金等の債務を
最初の条件どおりに返すことができなくなったが
さりとて破産して会社を清算するより
何らかの手だてを講じて会社を継続させた方が
債権者にとってより多く回収できるために
何らかの手だてを裁判所の介入の下で強制的に実現させよう」
というところにあります。
そしてその何らかの手だての基本は
「債務のカット」「弁済期限の延長」です。
債務をカットすれば元本が減ると同時にそれにかかる利息も安くなる。
弁済期限を延長すればとりあえず弁済資金を用意しなくてもいい。
そういうことで利益が出るようになれば
利益の中から回収できる。
そういうことが成立し
かつそれが今すぐ会社を解体清算して残ったものを分配するより有利であれば
それにしましょうってことになります。
(逆に言うと仮に債務がなかったとしても利益が出ないような会社であれば
利益からの回収が見込めないわけで
会社更生や民事再生は無理です。
また利益が出たとしても解体清算の方が有利であれば
債権者が賛成してくれないでしょう。)
ちなみに,会社更生や民事再生による会社の再建を決めるのは
第1次的には「会社から何か払ってもらう約束」をしている債権者です。
そしてこの債権者には株主は含まれないのですね。
上にも何回か書いたとおり,株主は
「利益が出た場合」「余りが出た場合」にもらえるだけなので
「利益が出ようと出まいと」払ってもらえる債権者にはならないのです。
そうすると会社更生や民事再生の是非を決める権利は株主にはない一方で
上で書いたとおり基本は「債務のカット」「弁済期限の延長」なのですから
株主は実は無関係なのです。
「利益が出た場合」「余りが出た場合」に分配しなければいけないってことは
実は
「利益が出ない場合」「余りが出ない場合」には分配しなくてもいいのですから
放っておいていい。
会社更生計画や民事再生計画が本当に「債務のカット」「弁済期限の延長」だけであれば
株主はだまって待っていればいいのですね。
ところがたいていの計画では「債務のカット」「弁済期限の延長」では終わりません。
弁済資金を捻出するために
出資のカット=減資を行うことになります。
例えばそれまで会社としては1000株発行していたときに,
900株を減らして100株にするような作業です。
この作業で株主の会社に対する権利は10分の1に減ります。
それだけ会社に対する権利の価値が下がったとは言えるでしょう。
でも,これでもまだ紙くずとは到底言えません。
10分の1になっただけです。
紙くずになったと言える場合は「資本の入れ替え」とも言われる
「100%減資」すなわち既存の株式をいわば無効化してしまう場合だけです。
そうでなければ比率が下がるとはいえ株主であることには変わりがないので
そのまま待ってうまくいって会社が利益を出すようになれば
再び会社から利益分配を受けられるのかもしれないのです。
確かにこういう状態になれば株価が大きく動きますから
株式市場では何らかの手を打ちます。
その中には上場基準を満たさなくなったとして
上場を廃止する場合もあるでしょう。
そうすると売買が著しく困難になりますから
会社からの分配をあてにせず
もっぱら市場価格の上下だけを目標にしていた人にとっては
「紙くず」なのかもしれません。
でも,ここまで説明すれば
一般的に「紙くずになった」と言えるのは100%減資の場合だけであって
そうでなければ会社に対する権利が残り
その権利をどう評価するかによって話が変わることは
容易にわかってもらえるのではないかと思うのです。
(2010年1月10日 23時39分)
佐々木将人: 2010年7月14日 23時26分: Q&A: comment (0)