lufimia.netホームページへ

予想外れたね

東電OL殺人事件の話。
参照 http://www.lufimia.net/dynamic2/tpl00/179

実際,ニュース聞いてて,無罪判決出たってあって
「あれ?開廷できたの?」
って謎に思っていたところ
某方面で「予想外れたのなんで?」ってあったので
原因をつらつら考えて見たのさ……。

で,その最大の原因は
「もともとの裁判でも1審東京地裁は「無罪」だった」
って点をすっかり見落としていた点。
もうすっかり「再審は東京地裁から」だと思い込んでいたという。
刑事訴訟法435条により再審は
「有罪の言渡をした確定判決に対して」行うものであるところ
1審が無罪で検察官控訴して原判決を破棄してかつ差し戻さないで自判すれば
有罪の言渡をした確定判決は控訴審のそれになり
よって再審も控訴審である東京高裁からになるのさ。

1審と控訴審で何が違うかと言えば
1審は前に書いたとおり
「被告人の出廷が権利でもあり義務でもある」ので
とにかく被告人を法廷に連れてこないと
裁判自体が進められない。
→連れて来れないと無罪判決も出せないやん。

ところが控訴審の場合は
「被告人の出廷は権利ではあるが義務ではない」ので
被告人が法廷に来なくても裁判を進行させられるのだ。

とはいえ
被告人の出廷の権利を奪ってはいけないので
被告人に対し期日の通知をしなければならないことになっている。
(通知をしないのは違法だって判例もある。)

そうすると,通知をどうやってやるかってことで
通知ができなければ結局前に書いたとおりの話に戻るんだけど……。

この点は刑事訴訟法54条により特則ない限り民事訴訟法準用となる。
そして民事訴訟法では通知については
「適宜の方法でよい」となっていて
一番使われるのは「普通郵便送付」「FAX送付」「電話で口頭で告知」ってあたり。
(その他にあえて言えば「期日請書提出」か?)

ところが……
素の状態では被告人の連絡先はわからなくて当たり前。
だってそれまでの裁判は身柄が拘束されている状態だったけど
刑の執行が停止された時点で
被告人は裁判所に対し連絡先を明らかにしなければならない義務もなくなったわけさ。
(これが保釈や勾留執行停止なら,住居の制限がつくくらいだから,連絡先は当然明らかにしないといけない。)

そうすると強制送還された時点で
「通知もできない→裁判開けない→それでも無罪よりまし」と検察が考える可能性が否定できないも同じ。

ところが弁護人側の選択肢が変わっちゃうのよ。
通知を受けることができさえすれば被告人が出廷しなくても裁判は進行する。
裁判が進行すれば無罪判決が出る公算が高いし
仮に有罪判決だとしても
ネパールと日本との間に犯罪人引渡条約がない以上
弁護人側が被告人に「もう二度と日本(とアメリカと韓国)に来るな!」と厳命してそれが守られれば
実際に身柄を拘束されることはない。
……裁判を進行させることのリスクがこと身柄拘束に関する限りほぼないのよ。

そうすると
「通知を受けられるようにする」わな。
そして刑事訴訟法で準用される民事訴訟法には
「送達場所の届出,送達受取人の届出」を任意に行うという制度があって
これを届けちゃえば,通知を受けることができるようになる。

これに対し検察側は
「起訴自体やめます」って制度がない。
正確には第一審判決前までなら257条による公訴取消ができるけど
(ちなみに例のPCなりすましの案件はこれで行ったらしいけど
 厳格に言えば制限付きとはいえ257条による公訴取消後再度起訴することは可能なので
 犯人ではないと真に思っているなら無罪判決を出した方がいいって考え方が本来正解。
 仮にこれを阻むものがあるとすれば,検察の意識もさることながら
 市民の側の「無罪と言ってもやったんでしょ」って偏見が大きいと思う。
 言い換えれば逮捕で一件落着的な意識。)
本件では1審判決が出ているのでだめ。
裁判開かれたらあとはもうあくまで有罪って言い張るか
あきらめて無罪論告しちゃうかって選択肢しかない。

今回はどうも無罪論告したみたいなんだけどね。

というので元々の裁判の1審判決が無罪だという点を見落としたがゆえの読み間違いでしたとさ。

余談
じゃあ今回なんで検察が有罪論告あきらめちゃったかというと
法廷に出された証拠によって「合理的な疑問をさしはさむことができない程度に確かに有罪だと証明できた」とは
とても言い難い状況だったということに尽きると思う。
検察は再審に限らず他の事件でも無罪論告した例がいくらでもあるし
一方で「どうみても無罪出るでしょ」って再審でも堂々と有罪論告しているからね。
本件だけ国民世論に配慮したなんて思想は検察にはないと思う。


No comments yet.


コメント記入欄

コメントフィード

トラックバックURL: http://www.lufimia.net/dynamic2/tpl00/209/trackback


  • カテゴリー

  • RSSフィード    Atomフィード


    検索