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戦争犯罪と法

多谷千香子「戦争犯罪と法」岩波書店を読んだ。
ずいぶん読みやすい本だと思ったら,
著者の経歴に,日本の検事をしていたことがあって,納得。
……裁判に携わる経験があると,ある種の共通の基盤ができるんだと思う。
  国際法プロパーの先生だとその基盤を感じないことが多いのも事実。
国際法上の戦争犯罪について端的にまとまっているよい本だと思います。
……あたしもこういう法学書を岩波書店から出せる人間になりたいとも思ったよ。
(慧文社さん,ごめん。
 でも慧文社さんも
 「うちは研究者を育てるのが目標ですから,ある意味,早くうちを卒業してくださいね」
 と言ってくれたんだし,
 このくらいの目標を立てるのは許してくれるでしょう……。
 売れるようになっても慧文社から出し続けるし!)

この本にも賛成できない部分はある。
それは刑罰の抑止力という点で,
著者は,戦争犯罪の抑止のためには,処罰以外にはないと言いきっているんですよ。
さすが検事出身って感じもするんだけど……。

で,この前提には
「裁判では(全知全能の神様が把握している)客観的事実がわかる」
という発想があると思うんですよ。
でも……正直私にはそういう発想はないです。
むしろ「裁判では客観的事実がわかる保障はない」と思っています。
この点は日本法では説明しやすいんだけど
まあそれは次回作か次々回作で触れるのでお楽しみにってことで……。

で,刑罰を前提にした裁判システムで真実がわかることが多いのは
確かに刑罰を前提にシステムだからとは言えそうなんだけど
それが絶対的ではないことは
アメリカだと刑事免責を与えた上で航空機事故の原因追及をすることが多いことで
十\分証明できていると思うんですよ。
すなわち「刑罰を課せられるからこそ本当のことを言わない。」
のもまた事実なんだと。

となると
著者が指摘する
「国際裁判で戦争犯罪を裁くことが,国民にとっても隠された真実を明らかにすることになる。」
というのが,そんなに単純な話でもなさそうだよ……ってことになると思うのです。

そしてもう1つが
「戦争犯罪人をきちんと処罰することしか戦争犯罪は防げない」と言わんばかりの論調。
間違いとまでは言うつもりはないんだけど……。

そもそも戦争(もしくはこれに類する武力衝突)がなければ戦争犯罪はあり得ないわけで,
そこで第2次世界大戦後は
「協力のための国際法」とも称される
各国の積極的な行動を期待する国際法が
主に経済的な面を中心に形成されつつあるのに
こういうことが戦争防止にも役立つのは明らかであるにもかかわらず
「処罰による規制しかない」
と言いきってしまうのは,国際法の現状を否認しすぎてはいないのか?……と。

この対極にあるのは羽仁五郎の「都市」を中心とする一連の著作で
「社会がしっかりしていれば犯罪は減らせる」
という言説で
「犯罪者0」というのはさすがに誇張というか無理があると思うけど
防げた犯罪があるのも事実で
協力のための国際法はまさに戦争防止策という意味もあるだろうと考えるのが相当。
それを「戦争犯罪人の処罰しかない」的に書くのはさすがに書きすぎだろう……と。
(2010年8月14日 23時56分)


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