市民権
ことの発端は国籍の話を書いてて,国際関係法辞典が
「国籍=市民権だが違う国もある」
って趣旨のことを書いてて
「本当か?」って思ったところから。
ちなみにnationalityを国籍
citizenshipを市民権
civil rightsを公民権と訳している辞書が多い。
で,アメリカはnationalityとcitizenshipを区別しているらしいけど
そういう国の方が少数で
nationalityとcitizenshipを区別していない国の方が多い。
また連邦国家で支分国が連邦との関係でcitizenshipを持つという表現もある。
そうすると……
国家の構成員の地位たる「国籍」と
国家の構成員の地位たるcitizenshipが同じというのが説明つく。
一方citizenはいかにもcityから転じたことがまるわかりであるように,
都市住民というニュアンスを持つ。
ちなみにこの場合のcityは日本の市町村の市と同一に考えちゃいかん。
近いのは「自治都市」って訳。
羽仁五郎のいう「都市の空気は人を自由にする」っていう文脈における都市。
そこでcitizenを自治都市の民衆というニュアンスで市民と訳して
citizenshipを市民権と訳し
それと区別する意味でcivil rightを公民権って訳し分けるというのは
それほど非難できないかもしれない……。
だけど……。
法的にはちょっと危険な水域かな……って思うのだ。
というのは,憲法業界ではB規約として有名だけど
国際法業界ではあんまりそういう言い方をしなくなった
「市民的及び政治的権利に関する国際規約」の英文名って
「International Convenant on Civil and Political Rights」なんです。
すなわちCivil Rightsは「市民的権利」であり
実際あげられている権利は
各種の自由権なんですね。
参政権が政治的権利なのはもう説明の必要もないだろうし……。
そして日本の国内法で公民権と言った場合
これは選挙権であり被選挙権なんです。
……もっとも正確にそう定義した条文は今はないんだけど。
でもその名残は公職選挙法違反罪の処罰の際の選挙権の停止が
業界用語では「公民権停止」と言われていることに残っている。
で,ここまで用意してようやくアメリカにおけるこの3つの概念の使い分けが
見えてくるんですな。
アメリカのいわゆる公民権運動ってcivil rights movementなんだけど
別に選挙権を求めていたわけじゃないよね。
アメリカ合衆国憲法修正14条が言われたけど
とても日本の言う「公民権」ではない。
そして象徴的なのは修正14条にはcivil rightって言葉はなくて
citizenshipとnationalityが違うって文章になっていること。
(国籍の付与について出生地主義をとっているから
「生まれたか帰化した者」だけだったらnationality=citizenshipになるけど
なんと「生まれたか帰化した者」にさらに制限を加えて
(and subject to the jurisdiction thereof)
それが citizens of the United States and of the Stateだと言っているのです。)
なもんで
アメリカで「国籍と市民権は違う」というのはそのとおりなんだけど
nationality=国籍
citizenship=市民権
civil rights=公民権
としちゃうのは大変危険な領域だよと思ったのでした。
(2009年7月28日 0時41分)
佐々木 将人: 2015年4月14日 23時45分: 未分類: comment (0)